第1章 夢
庭先から、幸村様が、家臣の皆さんを、叱咤激励しながら、鍛錬している声が聞こえる。
幸村様は、結婚する前と後を比べても、全てに於いて、
清廉潔白で真っ直ぐな方だ。
幸村様は、真田の血の者として、ご自分は、戦で武功を上げる事が、己の生きる使命だと思っている。
どこからか、桃色の桃の花の花びらが、風に吹かれて、ひらりと、わたしの足元に落ちる。
幸村様の将来を暗示するかのかの様に。
戦で武功を上げるとは、つまり、戦場で散る事。
わたしは、幸村様の二人目のややを身篭っている。
今は、乱世の世、武家の男には、多くの覚悟がいる。
そして、武家の嫁となった、
わたしも、多くの覚悟が必要だ。
だからと言って、幸村様の武功を願う事など出来ない。
生まれる子と共に、家族揃ってた生きてゆきたい。
「よし、みんな休憩だ。幸村様の声で家臣の皆様が、縁側で休憩を取られる。
わたしは、甘味とお茶を 梅子さんや、松子様と一緒にお運びする。
「おお、柚かたじけない」
幸村様が、わたしの差し出したお茶に手を伸ばす。
「今日の甘味は、幸村様の好きなドーナッツです」
わたしが、そう言うと、幸村様は、この上なく嬉しい顔で
わたしを見て笑った。
わたしは、心の底から、神仏に祈る。
どうか、幸村様を戦場で、散らない様に守って下さいと。
「上杉も、織田も、徳川も、豊臣も、滅んだ現在、親方様が天下統一をされるのも、時間の問題。皆の者、後少しだ。
親方様の為に、敵をうち砕こうではないか!」
幸村様が、雄々しく言われると、家臣の皆様のおお!という歓声が上がった。