第1章 夢
筆舌しがたい夢から
わたしは、やっと目覚めた。
「お?柚起きたのか?」
幸村様が褥の上で大きく伸びをしながら言った。
「今日は桃の節句。御馳走期待してるぞ、でも、無理はするな。柚、分かったな?」
幸村様は、そう言ってわたしを逞しい腕の中に守る様に引き込んだ。
「あ!」
大好きな幸村様の匂いがする。
幸村様は、嬉しそうに目を細めるとこう言った。
「ずっと、ずっと、俺の側に永遠に居てくれ。柚」
わたしは、嬉しくて、嬉しくて、幸村様が永遠にわたしの側に居てくれると言う現実が嬉しくて、幸村様にしがみついた。
「わたし、幸村様が死んでしまう夢を見ました。昨晩」
思い出しただけで、身体が凍り付いてしまう様な夢だった。
幸村様が討ち死にする夢なんて!
「俺が死ぬ夢を見るなんて、俺も鍛錬が足りぬな」
幸村様は、そう言って少し悲しそうな顔をして、わたしの額に口付けを落とした。
「お前が逃げても、俺が柚から離れられぬからな」
幸村様は、からりと笑って、そう言うと、金色に輝く朝日を背に、燃える様な紅の瞳でわたしを見つめて言った。
「ずっと、側にいてくれ、それだけでいい」
「はい」
「今日は桃の命日」
「ああ、御馳走作ってやらんとな」
幸村様はそれだけ言って、わたしを再びギュッと抱きしめた。
「柚、お前のお腹には、ややがいる。今度は男の子が良いな」
幸村様はそう言うと、わたしのお腹を優しく優しく撫でた」
「はい、今度は幸村様に似た強い男の子を産める気がします」
「父上と兄上の喜ぶ顔が目に浮かぶぞ。柚」
幸村様は、目を細めて優しく笑うと、わたしを慈愛に満ちた瞳で見つめた。
「わたし、幸村様の奥さんになれて、本当に良かったです」
「俺は日の本一の幸福者だ。柚ありがとう」
幸村様の匂いが再び強くなった。
そして、唇が暖かい物で塞がれる。
幸村様の唇だと思うと涙が溢れる。
幸村様は生きてわたしと口付けをしている。
夢は 現実ではなかったのだ。