第1章 【R18】仮初め《昌平君×李牧》
昌平君にとっても、また不思議なことだった。
無論、昌平君にもその趣味はないのだが、この時だけは、なぜか、目の前にいる敵国の男に、強く欲情していた。
理由の1つは、李牧の奔放さに、翻弄されていたことだ。
これまで昌平君は、性の相手に不自由したことはないが、軍総司令の肩書きの前では、皆一様に昌平君の顔色を伺い、ゴマをするように従順に尽くしたがる者ばかりだった。
気立てが良ければ、満足するとでも思っているのか。
己の欲に正直で、昌平君を振り回すほど度胸ある者は、これまでにいない。
そこら中に溢れている、変わり映えのしない女を何度抱いても、欲望が満たされることはない。
昌平君の心の奥底には、そんな本音が巣食っている。
突然現れた李牧という男は、男の昌平君から見ても、不思議な魅力を纏っていた。
否、魅力というより、人を惹きつける魔力というべきかもしれない。
国や戦について語り、宣戦布告をしたかと思えば、秦国の目線でも内情を捉えた発言をする。
男の趣味はないと宣言しながらも、突然唇を奪っては、直後に冗談だと微笑する。
一国を率いるカリスマ性の中に、自由さを垣間見せる李牧。
敵国の王都で、単独で屋敷に忍び込み、昌平君を目の前にしても、媚びず、怯まず、対等・・・どころか、相手の心理を掻き乱すことに関しては、むしろ一枚上手なくらいだ。
初めは、目の前の男を、敵国の策士としか捉えていなかった昌平君だが、こちらに真意を掴ませぬフワリとした李牧の一連の行動は、昌平君の強烈な興味を煽り、この男のことを深く知ってみたいと魅了していった。
あるいはまた、これまで常に1人で物事を考え、順序を決めて、自分主導でやってきた昌平君に、相手を思い通りにできないもどかしさは、単純に新しい刺激で新鮮だったのかもしれない。
内なる男の性(さが)が、生理的な欲求が、身体の奥から溢れて押さえきれなくなっていた。
ただ、貪るように、その白い肌に、触れてみたい。
美しく、切ない瞳に、惑わされてみたい。
着物の下に隠れる肉体を露わにして、気が狂うほど溺れてみたい。
そして、本人が気付いているかどうか定かではないが、相手にも同様の欲求が潜在していることを、この時、昌平君は知っていた。
口づけ直後に、李牧は冗談だと言ったが、その叙情的な瞳を見れば、冗談でないことは理解に易かった。
