第1章 【R18】仮初め《昌平君×李牧》
「ほう。
我が国王を侮辱するとは、聞き捨てならないな。
秦国国王は年齢こそ若いが、既に加冠を迎えておられ、精神的にも成熟されている。
強い覚悟と責任を背負った上での決断だ!
お前の方こそ、単身で俺の屋敷まで忍び込むとは、たいした度胸だ!
敵陣で国王を冒涜するなど、正気ではないのだろうな!」
昌平君の声が響く。
「今は王への冒涜などといった話をしているのではない!!」
被せるようにして、李牧が語気を強める。
「加冠していたとしても、生きてきた年数、重ねてきた経験が浅すぎるがゆえ、あのように破滅に繋がる夢が描けるのだ!
欲望のために失いゆくもの、永続的に続くわけではない不確かな信頼、民が負わされる数々の苦痛や貧困、etc.
例え王と言えど、失敗に終われば、責任などの言葉はないも同然!!
本当に秦国を思い、現国王へ仕える覚悟があるのなら、若き国王の暴走を止めてやる、それこそが貴方達•大人に課せられた責務ではないのですか?昌平君!!」
李牧は、まくし立てた。
遮るように、昌平君が続ける。
「王単独で描く夢ではない!!
私の経験値を持って、勝機を見出し、不可能と思われる困難の実現に、賭ける価値があることなのか、それとも初めから賭けるに足らぬ絵空事であるのか。
それは私の問題であり、ひいては秦国の問題だ!
お前には、関係のないこと。
秦国外の人間に、とやかく言われる筋合いはない!!!」
「……」
李牧は押し黙った。
表情は、険しい。
しばし口を噤んだ後、今度は穏やかに、昌平君に問う。
「そうですか。
秦国の問題ですか。
はっきり言って、秦国王の語る中華統一は、幼子の戯れ言です。
実質的に秦国の頭脳を担うあなたが、秦国王の遊びに本気で付き合うというなら、それは滑稽以外の何物でもありません。
しかし、残念ながら、私の忠告では、あなたの考えが覆ることはなさそうですね…。
それでは1つ、質問します。
秦国王が周囲の協力の元、その大義を成し得ようとした時に、今の協力者たちが皆、心変わりすることなく、最後まで付き合ってくれる可能性はどれくらいありますか?今は皆の力で成し遂げられると思っていても、最後まで残る者がいてくれる可能性は極めて低いことを、若王は理解しているのでしょうか?」
鋭い眼差しの昌平君を、力強く真っ直ぐな李牧の眼差しが捉える。
