第1章 実弥との出会い
あれから何時間経ったのか…部屋のドアが開く音で、実弥は現実へ引き戻される。
「胡蝶!雪は大丈夫かっ?!」
「不死川さん、もう大丈夫です。呼吸を上手く使って止血出来ていましたし、適切な応急処置のお陰で何とか持ち堪えてくれましたよ。」
「そうか…」
「明日には目を覚ますと思いますから、今晩は付き添ってあげて下さい。」
「…すまねぇ。」
病室へ入ると、雪が穏やかな表情で眠っていた。
「…雪。」
側へ近づいた実弥は、頬に手を添える。
隠からの言葉を聞いた時、頭が真っ白になり、10年前の出来事が突然頭に流れ込んできた。今回は雪自身がそうなるのでないかと…普段の実弥では考えもしない事が頭の中を巡っていた。
そう思ったら居ても立っても居られず、屋敷を飛び出していた。
眠る雪を見る顔は、愛しいものを見るような、何かを耐えているような…複雑な表情だった。実弥しか知らない、内に秘めた気持ちー。
「早く目ぇ覚ましやがれっ…」
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『…ん…こ、こは……ん"ん?!』
雪が目覚めると、見慣れない天井が目に映る。そして、同時に左手に違和感を感じて視線を移すと…
『(ななな、何で師匠が手を?!…え?!!)』
「おい…」
『(いや、師匠が人前で寝るなんて!)』
「おい。」
『(そもそもココは何処?…え?何処?!)』
「おいっ!」
『はぃっ!…イタァ!!!!』
「バッ、デケェ声出すな!」
何故、実弥が自分の手を握っているのか。
回らない頭で必死に考えていると、起きた実弥にも気付かず、しまいにはいつもの調子で返事をしてしまい痛みに悶絶する。
そうこうしてる内にしのぶ達がやってきて、患部の確認をした後「1ヶ月は安静にして下さいね。」と言って出ていった。
『あ、あの、師匠!』
「何だ?」
『さっき…あの…』
「ハッキリしろォ。」
『わ、私の手を握ってくれてましたよね?!』
「あぁ。」
『……理由を聞いても…?』
「…。」
押し黙った実弥に、雪は踏んではいけない地雷を踏んでしまったのかと冷や汗が止まらなかった。