第7章 破壊力抜群
ぐいっと顔を近づける杏寿郎に、今度は雪の息が詰まる。
「はて、どうしてだろうか?」
『…ぁ、の…』
コンコンコンー
もう少しで唇が触れてしまうのではないか…という所で、ノックする音が聞こえた。
パッと離れた2人は何事もなかったように振る舞う。
「失礼します。湯浴みの用意が整いましたので、ご自由にご利用下さい。」
「承知した!かたじけない!」
『ありがとうございます。』
女将の登場に内心ホッとする雪。
あのままだったら、自分の心臓が保たないのは確実だった。
その後は、何事もなかったかのように食事をし、別々の部屋で睡眠をとる。
睡眠をとる…
睡眠を…
『寝れないっ!』
雪は布団から上半身を起こす。
寝れないのもそのはず。
ここは花街の一角にある屋敷。
男女が一部屋を共にし、ひと時の夢を買う場所。
となれば…
『…すっごい声聞こえるし……』
あちこちから、営みの声が聞こえてくる。
"師範は平気なのだろうか…"と余計な事を考えてしまい、ますます寝れなくなった雪はそのまま朝を迎えてしまった。
「おはよう!む?顔色が悪いな…」
『全然、大丈夫です。ちょっと寝不足なだけで…』
「ふむ。」
杏寿郎は雪をじっと見つめて、何かを考えていた。
「よし!今日は俺1人で行ってこよう!雪は寝るといい!」
『え?!師範だけを行かせるなんて、出来ません!』
「これは待機命令でもある!」
『…ゔ…ずるいですよ。』
さすがに柱であり師範である杏寿郎から、待機命令!と言われてしまっては、雪も素直に従うしかなかった。
杏寿郎も分かった上で言っており、このまま無理をする雪を見ていられなかった。
『では、師範。気をつけて行ってらっしゃいませ。』
「何も心配ない!大丈夫だ!」
そう言って杏寿郎は部屋から出て行った。
一人残された雪は、凹んでいた。たった1日寝ないだけで心配されるような状態になってしまったのはもちろんだが、それよりも昨晩の聞こえてきた"もの"に対して想像してしまったのだ。
ーもし師範と…ー