第1章 実弥との出会い
「へぇ!この状態で気を失わないなんて、やっぱり君の体に"仕込んでおいて"正解だったなぁ!」
『な…にを……がはっ!』
「あー、あんまり喋らない方が良いよ?でも、ちゃんと育ててくれたお礼に教えてあげる。」
『…ぐっ、ぅ…』
鬼は雪の体から手を引き抜くと、雪を突き飛ばし木の上へ移動した。
雪は呼吸で止血する事で精一杯で、動くことが出来ない。何とか顔だけでも鬼の方に向けるが、その目は霞んで上手く捉えることが出来なかった。
「10年前のあの日、僕は君の体に玉を埋め込んだのさ。」
『…た、ま…?』
「そうさ。力のある者に埋め込めば、こいつが力を吸収する。それを回収して僕の中に取り込む。そうする事で、僕の力になる。」
『反吐…が、出る…』
「君は大当たりだったよ!お陰ですごい力が溜まったんだからね。」
ニコニコと笑いながら話していた鬼だったが、急に表情が消え辺りの気配も冷たくなっていく。
「でもね…これは完成じゃない。あの時、あいつが邪魔をしたんだ。」
『あ、いつ…』
「顔に傷がある男さ。あいつのせいで、僕の術は完璧じゃない。まだこれは"使えない"。」
『(…師匠!)』
「あいつが君をあの時に連れていかなければ、僕の術は完璧だった!!」
『(…あの夢の人は…師匠だったんだ…)』
雪が夢に見ていた人物は、師匠である実弥だった。
小さい頃、村が襲われ家族も襲われ、たった1人生き残った。鬼が去った後に駆けつけた実弥と他の隊士達によって助け出された雪だったが、ショックが大きく記憶が曖昧になっていた。
「ま、でも良いよ。また会いに行くから。ここで死なれたら困るけど…死んだら死んだで君はそこまでだったって思う事にするよ。」
『…っ…』
限界だった雪の意識が薄れていく。最後に見た鬼は恐ろしいほどに笑っていた。
『(…し、しょ……)』