第5章 あなたの色に染まる心
写真に写っていたのは、炎のような模様が描かれた布か何かの一部。それを見た時、雪の脳裏に浮かんだのは…
『煉獄…先生…っ?!』
激しい耳鳴りと同時に頭痛が走る。
私はこの柄を知っているー
あれは大正時代ー
これは羽織ー
そう、羽織の柄ー
炎の紋様ー
鬼殺隊の最高位ー
『え、ん柱…炎柱!』
ガバッとベッドから起き上がると、雪は家から飛び出した。向かった先は、その当時を知る者なら誰もが知る場所だった。
『ハァッ、ハァ……』
そこには1つの石碑があった。
ー200人の乗客を乗せた状態で脱線したにも関わらず、1人の死者も出なかった奇跡の場所。その列車の名はー
『無限、列車……師範…師範!!』
膝から崩れるように座り込む雪。
そこは、かつて師と仰いだ人物が亡くなった場所。
上弦の参が突如として現れ、雪を含め何名かの隊士達を守り抜き最後を迎えた。
「…雪。」
後ろから名前を呼ばれ振り向くと、そこには杏寿郎が立っていた。
『師範…』
「やっと思い出してくれたか?」
『…っ…』
最後の記憶に残っていたのと同じ、少し困ったような笑顔を見せる杏寿郎に雪の目から大粒の涙が溢れ落ちた。
『すみま、せん!すみません、師範!』
「いや、俺もすまなかった。あの時、君を1人残してしまった事。」
『わ、私が弱かったから!…よわ、かったから…師範を死なせてしまった!』
地面をぎゅっと握り話す雪の手を、杏寿郎はそっと握る。
「それは、違うぞ。」
『でも!何も出来なかった…ただ、見ているだけしか…』
「雪…。」
『…師範1人に全てを背負わせてしまった…お役に立てなかった…』
「っ、もう何も言うな。俺たちは生まれ変わり、今を生きている。」
『…っ、』
「もうあの時と違う。鬼はいない。何も恐れる事はないんだ。」
『師範…』
「あの時、俺の技で君は目をやってしまったが…今世では大丈夫なようだな。」
指の腹で涙を拭きながら、杏寿郎は雪に問いかける。
『…いいえ。実は、全く色が見えないんです。』
「何?!」
『どんな検査を受けても異常はなくて…』
「…、」