怨念の一輪草【終わりのセラフ 一瀬グレン、16歳の破滅】
第7章 選抜術式試験
でも征志郎の動きが早すぎてこれでは絶対に間に合わない。
まともにこの拳を受けると怪我だけでは済まないし、下手すると骨折もありえる。
征志郎
「おら!」
グレン
「くそっ」
自分より弱いとわかっている相手に手をあげるなんて有り得ない。
そう思った時には体がもう動いていた。
時雨
「わ…」
「………」
通り過ぎざまに時雨の制服を後ろへと思い切り引っ張る。
すると重心を崩した時雨の体は尻もちをつくように後ろへと倒れ始めた。
敢えて時雨や征志郎の事を見ないようにしているから確認はできないが、これで当たってしまっても大怪我は避けられる。
そう確信して私は何事もなかったかのように通り過ぎた。
征志郎
「あ?」
「…?」
すると聞こえてきた征志郎の不満げな声。
それは躱されたからこその声ではないように感じて少し行った所で振り返る。
深夜
「征志郎様」
「!」
教室から出てきたらしい深夜がそこにいた。
しかも征志郎の腕を掴んでいる。
つまり征志郎の拳は私が何もしなくても時雨には届かなかったのだ。
でもこんな事をして養子の深夜がただで済むはずがない。
深夜
「あなた程のお方がこんな所で弱い一瀬の女を殴ったなんて噂が立っては家名に傷がつきます」
深夜が言っている事は誰でも納得する正論だったが、征志郎は掴まれた手を払い除けて睨みつける。