第9章 忍流風邪の治し方
「こ、小太郎さん…」
そこに立っていたのは小太郎だった。
雪乃の傍に腰を下ろし、その額に手を当てる。
「…まだ少し熱いが、大分下がったようだな」
「は、はい…もう大丈夫そうです…」
「…汗をかいただろう?体を拭いてやる」
「えっ!?」
小太郎の申し出に、雪乃は思わず素っ頓狂な声を出した。
そんな彼女に構わず、小太郎はその夜着を脱がせようとしてくる。
「ちょっ…、そのくらい自分で出来ますから!」
「…病人が遠慮をするな」
「遠慮じゃありません…!」
「今更照れているのか?」
「今更って…」
互いの事を知り尽くした恋人同士でもあるまいし…
「ならば後ろから拭いてやる…それなら文句は無いだろう」
「きゃっ…」
背後に回った小太郎に素早く夜着を脱がされる。
彼から見えていないとは言え、雪乃は咄嗟に両腕で前を隠した。
「…随分汗をかいているな」
「っ…」
小太郎の手にしている手拭いが背中を滑り、擽ったさにぴくりと肩が跳ねる。
強引な口振りとは裏腹に彼の手付きは優しいものだった。
「…悪かった」
「…?」
汗を拭いながら突然謝ってくる小太郎。
けれどそれが何に対しての謝罪なのか分からない。
黙っていると彼は更に話を続けた。
「…お前が体調を崩したのは俺の所為でもあるからな」
「…え…?」
聞き返したと同時に背後からそっと抱き締められる。
そしてすぐ耳元で彼の低い声が響いた。
「…お前を朝まで寝かさず、こうして可愛がってやった夜もあっただろう?」
「…!」
その言葉を聞き、ようやく謝罪の意味を理解する。
自分が体調を崩したのは、小太郎が寝不足にさせた所為だと言いたいのだろう。
「…汗をかけば熱も下がると言うが……俺が手伝ってやろうか?」
「っ…、結構です!」
そう強く断ったものの、小太郎の唇は耳から首筋…そして背中へと移動する。
「…綺麗な肌だな」
「ぁっ…」
ちゅっちゅっと何度か口付けをした後、今度はそこに舌を這わせた。
その度雪乃の体がぴくりと跳ねる。
思わず出てしまいそうになる声を彼女は必死で堪えた。
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