第7章 上田城での騒動
「入るぞ?」と言って襖を開けた元親。
部屋の中央にはちょこんと座っている雪乃の姿があった。
「戻ってこねぇから心配したんだぜ?」
「す、すみません…ちょっと酔ってしまったみたいで…」
今夜は一滴も酒を飲んではいなかったが、上手い言い訳も思いつかず咄嗟にそう答える。
「確かにちょっと顔が赤ぇな」
「ゃっ…」
ついさっきまで小太郎の愛撫を受けていたせいか、頬を触れられる些細な刺激にも反応し思わず妙な声を漏らしてしまった。
これには元親も驚いたようで…
「…なんつー声出すんだお前は」
「ご、ごめんなさい!びっくりして…」
そう言う雪乃の顔は真っ赤だ。
その表情は酒の入っている元親の雄を刺激するには十分だったが、まだ残っている彼の理性が何とか平常心を保たせた。
「そーいや猿飛から聞いたぜ?真田がお前を嫁にするとか馬鹿な事言ってた理由」
「……、」
「湯殿でバッタリ会ったって……ホントか?」
「ぅ…」
元親の視線が痛い。
けれど今更嘘をついたところですぐにバレてしまうだろう。
「ほ、本当です…」
「…アイツに裸見られたのかよ」
「っ…」
「…よし。今からアイツを始末してくる」
「も、元親さん!?」
沈黙は肯定と見なしたのか、鬼のような形相をした元親がゆらりと立ち上がる。
そんな彼を雪乃は慌てて引き止めた。
「あ、あれは単なる事故ですから!幸村さんに悪気があった訳じゃ…!」
「当たり前ぇだ…悪気があったらとっくに殺ってる」
「…!」
(元親さんが怖い…!)
「あ、あの…私ならもう気にしてませんし大丈夫です…」
そう告げれば、元親はハァと大きな溜め息をついた。
「お前はもう少し気にしろ」
「わっ…」
ぐしゃぐしゃと頭を乱暴に撫でられる。
全く気にしていないと言えば嘘になるが、出来る事ならあの件はもう忘れたい。
「…ったく……いつまでも此処でのんびりしてる訳にはいかねぇみてぇだな」
「…?」
「雪乃…明日此処を発つぜ」
「え…?」
「しばらくは天気も悪くなさそうだし、馬も十分休ませたしな」
「……、」
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