第1章 無口な忍と海賊の親分
「次はアンタの番だぜ?アンタは一体どこの誰なんだい?」
その質問に一瞬戸惑ったが、向こうが名乗ってきた以上こちらが名乗らない訳にはいかない。
「…わ、私の名前は八神雪乃です…東京の人間です」
「へぇ…アンタ姓を持ってんのか。て事はそれなりの家柄って訳だな?」
「…え……?」
可笑しな事を言う。
名字なんてみんな当たり前のように持っているものだし、自分の家は特別裕福な訳でもなくごく普通の一般家庭だ。
…実家が神社という事を除いては。
「しっかし、トウキョウなんて聞いた事ねぇ国だなァ…。着てるもんも見た事ねぇし、アンタもしかして南蛮の人間か?」
「……、」
次から次へと投げ掛けられる質問に頭がついていかない。
東京を知らない人間がこの国にいるなんて信じられなかった。
ひょっとして自分は彼にからかわれているのだろうか?
「と、東京ですよ?この国の首都の…」
「シュトって何だ?」
「………」
…ダメだ、まるで話が噛み合わない。
けれど至って真面目なその様子を見ると、彼は本当に東京という都市を知らないようだった。
(どうなってるの…?)
これ以上説明のしようがない。
他に何か手は無いかと考えた時…
(…あっ、そう言えば……)
「あのっ、赤い髪の男の人が一緒にいませんでしたか?」
自分を助けてくれた謎の男。
ここへ運んでくれたのもきっと彼に違いない。
「姿は見てねぇが、この文を残してったヤツの事か?」
「…!」
そこには綺麗な文字で『女の世話を頼む』とだけ書いてあった。
(やっぱりあの人が…)
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