第7章 上田城での騒動

「……、」

「…呼ぶのが遅い」

目の前に立っていたのは小太郎で。
咎めるような口調でそう言ってくる。


「もしかして…見てたんですか？」

「…ああ。お前がいつ助けを求めるのか待っていたところだ」

「………」

ひどい…と言い掛けてやめた。


「あの…幸村さんは……」

「案ずるな…急所は外しておいた」

「……、」

(ふうまさんが物騒な事言ってる…！)

けれど助かったのは事実なので礼は言っておく。
すると彼の口元が微かに弧を描いた。


「…漸く俺を頼る気になったか」

「い、いえ…あの…あれは無意識で…」

「ほぅ…無意識に俺を呼んだと？」

「……、」

否定は出来ない。
確かにあの時、自分の頭には小太郎の姿が過ったのだから…


「…それで？俺を呼んだからには只では済まないと解っているのだろうな？」

「イエ、ワカリマセン」

予想通りの事を言われたが敢えてとぼけてみせる。
ここで素直に頷けば、何をさせられるか容易に想像出来たからだ。


「…解らぬのならもう一度教えてやるだけの事」

「……、」

そう言われ思わず身構えると、そっと耳元に唇を寄せられる。


「…俺の事は"小太郎"と呼べ」

「………」

予想外の彼の言葉に一瞬耳を疑った。
てっきりまたキスの催促でもされるかと思ったのに…


「竜の右目の事は名で呼ぶ事にしたのだろう？ならば俺も風魔ではなく、小太郎と呼べ」

「…小十郎さんとの会話も聞いてたんですね？」

「………」

返事を聞くまでもなく100％そうだろう。

(…ちょっと可愛いかも)

これも以前彼が見せた嫉妬というものだろうか？


「…何を笑っている」

「ふふっ、ごめんなさい…ふうまさんが可愛くて…」

そう答えれば、ふにっと頬を摘ままれた。


「風魔ではなく小太郎だ」

「こ、小太郎さん…」

「…フン」

「それでえっと……どうしましょう？」

雪乃はそう言って、すっかり伸びている幸村に視線を落とす。


「…俺の知った事か」

「そ、そんな事言わないで何とかして下さい…！私も部屋まで運ぶの手伝いますから…」

「…チッ」

「……、」

(猿飛さんに何て言い訳しよう…)



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