第7章 上田城での騒動
これ以上幸村と話していても埒が明かないと悟った雪乃は、それまで傍観していた佐助に助けを求める。
しかし…
「女の子が苦手な大将にここまで言わせるとはねぇ…。正室に迎え入れるのは少し難しいかもしれないけど、側室なら…」
「さ、猿飛さん!?」
「何を申すか佐助!某は正室以外取る気は御座らぬ!」
「いや~、でも真田家繁栄の為にはさぁ…」
「……、」
張本人の雪乃を無視して、話はあらぬ方向へと進んでいく。
(こうなったら…)
「わ、私用を思い出したので失礼します!」
居たたまれなくなった雪乃は、そう捲し立てて部屋を飛び出した。
「ハァ…」
何だかすごい事になってしまった。
佐助はどこまで本気か分からないが、恐らく幸村は本気だろう。
短時間話しただけだが、何となく彼の性格が解ったような気がする。
(結婚なんて無理だよ…どうにか説得しなくちゃ…)
そう思いながら台所へ向かう。
そろそろ夕食の時間だ。
食事の準備は終わっていると佐助は言っていたが、きっと今夜も細やかな宴が開かれるだろうし、広間のセッティングを手伝わなければ。
「おう、来たか」
台所に足を踏み入れると、そこには鍋の前に立っている小十郎の姿があった。
「遅くなってすみません、私もお手伝いしますね」
「だったらコイツを味見してくれねぇか?」
「…?」
目の前に差し出されたのは山芋の煮付け。
「口開けな」
言われた通り口を開ければ、一口サイズのそれを放り込まれる。
「わぁ…すっごく美味しいです」
「…そうか」
いつも険しい顔をしている小十郎が柔らかく微笑み、その優しい顔に思わずドキリとしてしまった。
「か、片倉さんはホントにお料理が上手ですね。今度私にも教えてもらえませんか?」
「ああ、構わねぇ。奥州に着いたら色々教えてやるよ」
「ありがとうございます」
「それから…」
「…?」
「俺の事は小十郎でいい。主である政宗様を名で呼んでいるのに、俺を姓で呼ぶのはおかしいだろ」
…それもそうだ。
納得した雪乃は彼の申し出にこくりと頷く。
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