第7章 上田城での騒動
「それにしても…雪乃ちゃんてホーント不思議な子だよねー」
雪乃の為に布団を敷きながら佐助がそう言う。
そこへそっと彼女を下ろす小十郎。
「見ず知らずの俺様にご飯を御馳走してくれたり…イイ子だとは思うんだけど、これと言って特異な所は無さそうなんだよなぁ」
「…それは俺も同感だな」
政宗も彼女に興味を持っているようだが、その理由が自分にはよく解らない。
ただ南蛮語を理解出来るというだけで、あそこまで肩入れするだろうか。
「雪乃ちゃんの事調べたいのは山々なんだけど、またクナイ投げられちゃ敵わないしやめとくよ……今はね」
「…?」
「後はよろしく」と言って佐助は部屋を出ていく。
その言葉の意味が小十郎にもすぐに解った。
「…風魔か」
「………」
背後に感じた気配。
政宗から小太郎の事を聞いていた小十郎には、その気配が誰なのか容易に想像出来た。
「悪いな…お前の主を酔わせちまったのは俺だ」
「………」
「この様子だと朝まで起きる事はねぇだろうが…後は宜しく頼むぜ」
無言の小太郎にそれだけ告げると、小十郎も部屋を出ていく。
しばらく彼女の傍に腰を下ろしていた小太郎だったが、突然すぐ近くで爆音がした。
…落雷だ。
「…ん……」
その音で目を覚ました雪乃。
ぼんやりした視界には小太郎の姿が映った。
「……、ふうまさん…?」
重い体を起こすと、眩暈のような感覚に襲われる。
その様子を見ていた小太郎が呆れた顔で彼女の体を支えた。
「…飲み過ぎだ」
「そんなに飲んでませんよ~」
「………」
エヘヘと笑う彼女は上機嫌だ。
(コイツは酔うと笑い上戸になるのか…)
そう思った矢先、今度は突然暗い表情を見せる。
「…ふうまさん……」
「…なんだ」
「…私……、ホントに帰れるんでしょうか…」
「…?」
「…元の世界に……帰れるんでしょうか…?」
「………」
それは雪乃がいつも心のどこかで不安に思っている事。
酒のせいで弱気になっているのか、今まで胸につかえていた言葉がつい口から出てしまったのだ。
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