第6章 初めての船旅
「わ、悪ぃ!大丈夫か!?」
「だ、大丈夫です…!」
声を掛けてきたのは政宗で。
血が滲んでいる彼女の指を見て慌てる。
「とりあえず水で流せ」
「は、はい…」
雪乃の腕を掴んだ政宗は、水で彼女の傷口を洗い流した。
「Sorry、そんなに驚くとは思わなかったんだ」
「いえ、私の方こそ…。あの、もう大丈夫ですから」
「今包帯を持って来てやるから待ってな」
「えっ…!?そ、そんなに大した傷じゃありませんし…」
「いいから待ってろ」
「……、」
言われた通り待っていると、政宗はものの数分で戻ってきた。
「きつくねぇか?」
「はい…ありがとうございます」
綺麗に巻かれた包帯。
政宗はほっと息をつく。
「理由はどうであれ、女の体に傷を付けるなんて侍の風上にも置けねぇ」
「お、大げさですよ!私が勝手に手を滑らせただけですし…」
「ハァ……ったく、アンタはホントにお人好しだな」
「……、」
「まっ、そういう所が西海の鬼も気に入ってんのか」
そう言って政宗はようやく笑顔を見せる。
「怪我させちまった詫びと言っては何だが…俺も料理すんの手伝ってやるよ」
「えっ…!さすがにそれは…」
天下の伊達政宗にそんな事をさせる訳にはいかない。
「こう見えて俺は結構料理好きなんだぜ?」
「……、そうなんですか?」
「ああ」
正直意外だった。
彼が台所に立っている姿なんて想像も出来なかったから…
その後…政宗は本当に料理好きらしく、手際よく次々と野菜を切っていった。
「わぁ…政宗さん、ホントに上手ですね」
「だろ?」
政宗の包丁捌きに思わず感嘆の声を漏らす雪乃。
自分で料理好きだと言っていただけの事はある。
「どうだ?少しは俺に惚れたか?」
「はい!料理が出来る男性は素敵だと思います」
「………」
予想と違う答えが雪乃から返ってきた。
(そこは普通、照れるか否定するかどっちかじゃねぇか?)
けれど雪乃に他意は無いのだろう。
そうでなければ、無邪気にそんな事は言えないはずだ。
(コイツに惚れた男は苦労するんだろうな…)
他人事のように政宗はそう思った。
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