第6章 初めての船旅
(あれ……もう朝…?)
翌朝。
雪乃は布団の中で目を覚ましたが、昨夜部屋に戻ってきた記憶は無い。
(昨日はふうまさんに怒られた後、甲板で元親さんとちょっとお話して……その後どうしたっけ…?)
ひょっとして自分は彼と話をしている途中で眠ってしまったのだろうか。
そうだとしたら彼に迷惑を掛けてしまった。
「…起きたか」
「…!」
不意に声を掛けられびくりと肩が跳ねる。
振り返るとそこには小太郎が立っていた。
「ふ、ふうまさん…」
「…答えは出たのか?」
「え…?」
「昨夜頭を冷やしに行ったのだろう?考えは変わったのか」
「……、」
昨夜小太郎に咎められた事をもう一度よく思い出してみる。
『簡単に人を信用するな』
この世界、この時代では当たり前の事なのかもしれないが、平和な世界で生きてきた自分は急に生き方を変える事など出来ない。
雪乃は布団の上で正座をすると、しっかり小太郎と向き合った。
「ふうまさんの言う事は理解できます。ふうまさんが私の心配をしてくれてる事も…」
「………」
「でも…やっぱり私は、自分が信じたいと思った人は最後まで信じたいです」
「………」
黙って話を聞く小太郎に、彼女は更に続ける。
「実際、元親さんの事もふうまさんの事も信じて良かったって思ってますから」
「………」
「でも…それは私の我が儘です。今の話を聞いてふうまさんが私に愛想を尽かしたなら…もう私の事は……っ」
その先は言わせないとでも言うように、小太郎は彼女の唇に人差し指を当てた。
「…それ以上聞く気は無い」
「……、」
「お前がそう言う事は想定していた」
「…え…?」
「お前がそこまで言うなら俺はもう止めない。だが俺も好きなようにさせてもらう」
「…?」
首を傾げている雪乃の頬を両手でそっと挟む小太郎。
近付いてくる彼の顔に思わず目を瞑れば…
…むにっ。
「…!」
何故か両頬を指で摘ままれた。
「フッ…接吻でもされると思ったか?」
「っ…」
からかうようにそう言われる。
もう一度顔を近付けてくる彼に、次は騙されないと強気な視線を向ければ、軽く触れるだけのキスをされた。
──唇に。
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