第6章 初めての船旅
「えっと……私は雪乃といいます」
相手が正体を明かしたのに自分は明かさないというのはフェアじゃない気がして、雪乃はようやく名を名乗った。
何となくだが、彼が悪い人間には見えなかったからだ。
「あっ、ちょっとは俺の事信用してくれたんだ?…で、雪乃ちゃんたちは何処へ向かってるの?」
「それは…」
流石にそこまでは話せない。
そう雪乃が困っていると…
「うわっ…!」
佐助目掛けて飛んできたクナイ。
彼は寸でのところでそれを避ける。
「あっぶね…って、風魔!?」
いつの間にか目の前には見知った忍が立っていた……雪乃を自分の背に隠すようにして。
「なんでアンタがこんな所に…」
「………」
当然答える気の無い小太郎は無言だ。
だが、明確な敵意だけは感じる。
「そう怒んなって。俺様その子に危害を加えるつもりは無いよ」
「………」
「しっかしアンタが女の子の護衛だなんて、また似合わない事してんだね。雇い主は鬼の旦那?」
「………」
やはり答えようとしない小太郎に、佐助はやれやれと両肩を竦めた。
「あ、あの…ふうまさん、私なら大丈夫ですから…」
「………」
そう言う雪乃に溜め息をついた後、小太郎は彼女の耳元に唇を寄せる。
『今夜仕置きをされたくなければ、俺が納得するような言い訳を考えておくんだな』
「…!」
雪乃にだけ聞こえるように囁かれた言葉。
その脅しにも似た囁きに、彼女は顔を赤くするどころか青冷めた。
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