第6章 初めての船旅
「こんちはー」
「…!」
急に声を掛けられて驚いたのか、彼女はびくりと体を竦ませこちらを振り返る。
そんな彼女を安心させるように、佐助は胡散臭い笑顔で自己紹介をした。
「安心して、俺様全然怪しいもんじゃないから」
「……、」
「まっ、いきなりこんな事言われても信じられないか…。俺様一応、竜の旦那と鬼の旦那の知り合いなんだ」
「りゅ、竜の旦那…?」
「独眼竜の事だよ。鬼の旦那は長曾我部元親の事」
「は、はぁ…」
「…で、俺は猿飛佐助ね。お嬢さんは?」
「……、」
危機感が無いと散々言われている雪乃でも、ここで名を名乗る程軽率ではない。
彼が元親や政宗の知り合いだという証拠はどこにも無いのだ。
「あはー、やっぱり俺様信用されてない?」
名を名乗ろうとしない雪乃に苦笑いする佐助。
彼女の名を聞くのは諦め、今度は何か食べ物を貰えないかと頼んでみる。
「俺様昨夜から何も食べてなくてさー」
「……、」
流石の雪乃もそれには同情し、少し待ってもらうよう佐助に告げる。
ちょうど今作っていた魚料理と炊きたてのご飯をテーブルの上に並べ、彼に食べるよう促した。
「うっわ、美味そう!ホントに食べちゃっていいの?」
「はい…。さっき元親さんが沢山釣ってきてくれたので…」
("元親さん"……ねぇ)
彼女は政宗の連れではなく、恐らく長曾我部軍の人間だろう。
そう推理しつつ、空腹だった佐助は彼女の作った料理をあっと言う間に平らげた。
「ごちそうさまでした!いや~美味かった」
満足そうにお腹を擦る彼を見て、少しだけ雪乃の緊張も解れる。
佐助という名は聞いたが、一体彼はどこの誰なのだろう…
「俺様は甲斐の忍だよ」
「……、」
雪乃の心の中を読んだかのように、佐助がそう言った。
忍…
小太郎とはまた全然違うタイプだ。
正直忍らしくないというのが率直な感想である。
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