第6章 初めての船旅
「こりゃあまた珍しい組み合わせだねぇ…」
元親の船を空から見下ろしてそう呟いたのは、甲斐の忍――猿飛佐助だった。
甲板にいるのは西海の鬼と独眼竜。
任務からの帰りだった佐助は、偶然その船(というよりもはや要塞)を見つけたのだ。
「竜の旦那…今度はなーに企んでんのかなぁ」
佐助の主である真田幸村と政宗はライバル関係にある為、彼の事はよく知っているつもりだった。
けれど元親と一緒にいるのは意外な光景である。
これは一応調べておく必要がありそうだ。
(あーあ…ようやく任務が終わったってのに、余計な仕事増やさないでよね)
一度気になってしまった事をそのままにはしておけない自分の性格を呪う。
これが周りから"苦労人"と哀れまれている理由のひとつだろう。
(かと言って、直接2人に話し掛けるのもなぁ…)
政宗は幸村のライバルであって、決して友好的という訳ではない。
悩んだ末佐助は、とりあえず船の中を探ってみようと誰にも気付かれないようそっと降り立った。
「…つーか広過ぎじゃね?」
船の中を探索し始めてから数分…
中には元親の部下などもいる為、見つからないよう慎重に進まなくてはならない。
探索するには広過ぎるその場所に佐助はうんざりしていた。
(…あ、なんかイイ匂い)
どこからか漂ってくる食欲をそそる匂いに足を止める。
そう言えば昨夜から何も食べていない事に気が付いた。
(せっかくだし、ちょっと摘まみ食いでもさせてもらうか…)
そう思いながら匂いのする方へ足を進めると…
「…?」
台所と思われるその場所には、こちらに背を向けて料理をしている人物がいた。
その後ろ姿はどう見ても女だ。
(こんなむさ苦しい所に女…?)
長曾我部軍に女がいるなんて初めて知った。
それとも彼女は政宗の連れだろうか?
彼女から殺気も血の匂いも感じなかった佐助は、肩の力を抜きその後ろ姿に声を掛けてみる事にした。
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