第1章 無口な忍と海賊の親分
「………」
それは本当に気紛れだった。
当ても無く森の中を駆けていた男――風魔小太郎はふと足を止めた。
――誰か助けて…っ…!
実際聞こえた訳ではなかったが、不思議と頭の中に響いてきたその声。
(…女?)
いつもなら任務以外の事になど見向きもしないが、何故か無性にその声の主が気になった。
「やめて下さい…!」
「大人しくしねぇか!」
耳を済ませば、女と男の声が聞こえてくる。
そのやり取りからして、男たちが女を襲っているのは明白だった。
(…下衆共が)
普段あまり感情を抱かない彼にとっても、男たちのその行為は見ていて気分を悪くするもの。
見つけてしまった自分の運を呪い、小太郎は背後から男たちの方へ近付いていった。
「ヘヘッ、やっと観念しやがったか」
「…ったくオメェは…せっかくの珍しい着物を破いちまって…」
そんなやり取りをしている男たちの背後に立つ。
首を落としてやっても良かったが、そうすれば女が怖がってしまうだろう。
「………」
無意識にそんな気遣いをしている自分に驚きつつも、小太郎は確実に仕留めるべく男の急所にクナイを突き立てた。
「ぎゃあぁぁぁあ!」
森中に断末魔の叫びが響き渡る。
驚いたもう1人の男が声を上げる前に、小太郎は素早くその息の根を止めた。
「……、」
一瞬何が起こったのか理解出来なかった。
突然雪乃の視界から消えた男たち。
代わりに立っていたのは、真っ赤な髪の男だった。
(…助けてくれた……の?)
目元まで覆っている兜のせいで、男の表情は読めない。
それでも自分の危機を救ってくれた彼にお礼を言いたかったが、あまりに色んな事が起こり過ぎて上手く言葉にならなかった。
「…っ」
ふと男の手が頬に添えられる。
びくりと肩を竦ませると、目尻に滲んでいた涙を拭われた。
(ぁ……)
その優しさに安堵したと同時に再び涙が溢れてくる。
雪乃はそのまま気絶するかのように再び意識を手放した…
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