第5章 奥州の竜

(そう言えば…)

小太郎にはまだ自分の素性を話していなかった。
彼にはいつも助けられているし、話しておいた方が良いかもしれない。


「あの、ふうまさん……実は私…」


小太郎は雪乃の信じ難い話も真剣に聞いてくれた。
彼自身雪乃の事を不思議な娘だと思っていたので、彼女が異世界の人間だと言われても納得は出来る。



「…お前の素性は解った。だが何故俺に話した」

「…え……？」

「俺がもしお前を裏切るような事があったらどうする？」

「………」

そんな事考えてもみなかった。
伝説の忍、風の悪魔…
そんな異名を持つ小太郎だが、彼は何度も自分を助けてくれた。
今だってこうやって真剣に話を聞いてくれている。


「何故と言われても……ふうまさんを信用してる…から？」

「………」

「上手く言えませんけど……もしふうまさんが本当に私を裏切ったとしても、私はあなたを信用した事後悔しないと思います」

「…だから何故だ」

「もぅ！ふうまさんは質問ばっかりですね！」

「お前が面妖な事を言うからだろう」

「面妖って…」

自分の言っている事はそんなに可笑しな事なのだろうか？
親切にしてもらった相手を信用するのはごく当たり前の事だと思うのだが。
それに…


「ふうまさんが本当に私を裏切ろうと思ってるなら、わざわざ私に危機感を持てとか口うるさく言わないと思いますけど」

「……。ほぉ…お前は俺の事を"口煩い"と思っていたのか」

「…！ち、違いますよ！今のは言葉の綾と言いますか…」

「このまま一晩、ここに放置してやってもいいんだぞ」

「っ…、ごめんなさい！私が悪かったです！」

先程の発言といい小太郎なら本当にやり兼ねないと、流石の雪乃も身の危険を感じる。
ころころと表情を変える彼女に小太郎は思わず口元を綻ばせた。


「…ならば俺が裏切る気など起こさぬよう、精々俺を愉しませるんだな」

「…え？」

「どうやって？」と聞く前に手を取られ、指先にキスをされる。
その行為に頬を染めれば…


「…次はどこにしてほしいか、今度会う時までに考えておけ」

と告げられた。



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