第5章 奥州の竜
必死に誤魔化そうとしていたのが却って仇になったという事か…
けれど元親との約束がある以上、自分の正体は絶対に明かせない。
何とか他に誤魔化せる方法は無いかと頭をフル回転させる。
と、その時…
「…!」
視界に入ったのは、政宗の首筋に当てられたクナイ。
彼の背後には小太郎が立っていた。
「…この独眼竜が背後を取られるとはなァ」
掴んでいた雪乃の腕を放し後ろを振り返る政宗だったが、そこに小太郎の姿は無く彼女も煙のように消えていた。
「…おいおい、西海の鬼はいつからこんな優秀な忍を雇ったんだ?」
「ふうまさん、ありがとうございました」
小太郎に抱えられ連れて来られたのは屋根の上。
彼のお陰で何とか政宗の詰問から逃れる事が出来た。
けれど安堵の息を漏らす雪乃に対し、小太郎は大きな溜め息をつく。
「…お前はいつになったら危機感を覚えるのだ」
「あ、あれは不可抗力で…!」
「………」
「ぅ……す、すみません…」
目元は見えないが、ジロリと小太郎に睨まれたような気がして反射的に謝る雪乃。
「…ふうまさん、いつから見てたんですか?」
「お前が酔った西海の鬼に捕まったところからだ」
「じゃあその時助けてほしかったです…」
「…フン、お前の困っている顔を見るのはなかなか面白いからな」
「ひ、ひどい…」
鼻で笑う小太郎を見て思わずそう漏らす。
「でも…政宗さんからは助けてくれたんですね」
「……。お前を苛めていいのは俺だけだ」
「………え?」
(…き、聞き間違いかな?)
真顔で物騒な事を言う小太郎に一瞬耳を疑った。
気のせいだとばかりに聞き流そうとすれば、そっと耳元に唇を寄せられる。
「…聞こえなかったのならもう一度言うが?」
「っ…」
その囁きと吐息に肩を竦ませると、小太郎がクスリと笑ったような気がした。
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