第5章 奥州の竜
「やっぱりアンタ、西海の鬼のオンナだったのか」
「……、」
腕を組み、壁に寄り掛かるような体勢でそこに立っていたのは政宗だった。
風呂上がりなのか、髪はしっとり濡れ格好も寝間着姿だ。
「しっかし男の寝込みを襲うなんざ、大人しそうな顔してずいぶん積極的なkittyだなァ」
「こ、これは違うんです!」
被害者は自分だと訴える雪乃。
そんな彼女に近付き、政宗は可笑しそうにその姿を見下ろす。
「アンタがどうしてもって言うなら助けてやってもいいぜ?」
「…え…?」
「その代わり、俺の質問に答えてもらうけどな」
「……、」
雪乃が了承する前に政宗は元親の腕を解き、彼女の体を自分の方へ引き寄せた。
「あ、ありがとうございます…」
元親の腕から解放され、ホッと胸を撫で下ろすのも束の間…
「さて…じゃあ俺の質問に答えてもらおうか」
「っ…」
やんわり壁に押し付けられる。
間近にある政宗の顔に、ドキリと心臓が音を立てた。
「アンタ…南蛮語をどこで覚えた?」
「…?」
意外過ぎる質問…けれどその意味は解らない。
南蛮語が恐らく英語の意である事は理解したが、何故そんな事を聞いてくるのか。
「昼間廊下で会った時…アンタはpartyに参加しないと言ったな」
「は、はい…」
「partyの意味が解ってたって事だろ?」
「…!」
そこで初めて自分の失態に気付いた。
この時代に英語を理解出来る人間はそう多くない。
けれど現代人の雪乃にとって、"パーティー"などという単語はもはや日本語のようなもの。
純粋な日本語だけで会話しろという方が無理な話だ。
「あ、あれはその……何となくニュアンスで解っただけで…」
「nuance…ねぇ」
「…!」
しまった…
何とか誤魔化そうとしたものの、却って墓穴を掘ってしまった。
冷や汗をかく名前に政宗は目を細める。
「何故そこまで隠す?確かに南蛮語を話せる人間は珍しいが、全くいない訳じゃねぇ。俺はアンタと西海の鬼が頑なに隠してんのが気になんだよ」
「……、」
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