第3章 再会と約束
「…西海の鬼から聞いただろう?俺の正体を…」
「……、」
"風の悪魔"──元親はそう言っていた。
雇い主の命なら何でもする非道な忍だと。
それは本当の話なのだろうが、それでも雪乃は小太郎を恐いとは思わなかった。
今だってこうして自分を介抱してくれている。
「…お前を助けたのも単なる気紛れだ。次此処を訪れる時は、鬼の首を狙う時かもしれない」
「…ふうまさん……」
「だからもう俺の事は忘れろ。今日はそれを伝えに来た」
「……、」
これ以上雪乃の側に居たら、いつか絆されそうで怖い…
流石にそんな事は言えなかったが、それが本心だった。
小太郎の話を聞き終えた雪乃は、彼が制すのも無視してゆっくり起き上がる。
そして向き合うように座って彼の顔をじっと見つめた。
「確かに、ふうまさんの事は元親さんから伺いました」
「………」
「でも…ふうまさんは私にとって恩人です。それはこれからも変わりません」
雪乃はそう言って彼の両手を握る。
「私がこの手を汚させてしまったんですよね……ごめんなさい…」
「……、」
予想外の言葉に、今度は小太郎が面食らった。
確かに自分は雪乃を襲おうとしていた男2人を殺害した。
今までだって数えきれない程の命を奪ってきたのだ…今更人、況してや山賊のような荒くれ者を殺める事など何とも思わない。
雪乃が自身を責める理由などどこにも無いはずなのに、小太郎を想って辛そうな顔をしているその表情に胸が苦しくなった。
(…本当に面妖な娘だ)
握られていた手を解き、今度は小太郎が彼女の手を取る。
そしてその細い指先にチュッと唇を落とした。
「…っ、ふうまさん……?」
「…気が変わった」
「…え……?」
「…やはり俺はもう少しお前の側にいる」
「……、」
そう言う小太郎の口元には微かな笑みが零れている。
(…ふうまさんが笑ってる……)
初めて見た彼の笑顔に、雪乃はつい心の中で場違いな感想を漏らした。
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