第3章 再会と約束
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(…なんだかイイ匂い……)
朦朧とする意識の中で感じたのは、鼻孔を擽るお香の匂いだった。
閉じていた目をゆっくり開ければ…
「…!」
「…気が付いたか」
すぐそこにあったのは、見覚えのある兜に見覚えのある口元。
「ふうまさん…!?」
雪乃が小太郎の姿に驚いたのは確かだったが、それ以上に驚いたのは彼が初めて声を発した事だった。
「…あの…私……」
「…屋敷の庭で倒れたのを覚えていないのか」
「……、」
そう言えば庭の掃除をしている時、突然眩暈がしたのを思い出した。
恐らく寝不足による貧血だろう。
「す、すみません…!」
雪乃が寝かされていたのは床の上ではなく小太郎の膝の上。
所謂膝枕というものをされている。
慌てて起き上がろうとすれば、「まだ寝ていろ」と半ば強引に寝かされた。
「あの…ここは…?」
見覚えの無い部屋。
屋敷の中ではなさそうだが…
「…安心しろ、ここは屋敷からそう離れていない小屋だ。後でちゃんと送り届けてやる」
「……、」
饒舌に話す小太郎を見て不思議な気分になる。
「ふうまさん、ちゃんとお喋り出来たんですね」
「………」
(…あ、また黙っちゃった)
そもそも何故彼は、自分が倒れた場に居合わせたのだろう?
ひょっとしてまた何か用でもあったのだろうか?
「…お前に話があった」
「…え…?」
心の中を見透かされたようにそう言われる。
「お話…ですか?」
「…ああ。今日はお前に別れを告げに来たのだ」
「……、」
唐突に告げられたその言葉に、雪乃は大きく目を見開いた。
彼とはたった数回会っただけの仲だが、それでも突然の告白に胸がきゅうっと苦しくなる。
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