第3章 再会と約束
雇い主と金で契約を交わす傭兵、風魔小太郎。
主の命であれば略奪や暗殺など、現代なら死刑に値する行為も躊躇わずに実行する。
実際小太郎は雪乃を襲った山賊たちも殺害したが、当の彼女は男たちが怪我を負った程度にしか思っていないようだった。
でなければ、もう一度彼に会いたいなどと思うはずがない。
「………」
真実を知らない彼女を見て、小太郎は複雑な気持ちになる。
あの男たちを自分が殺めたと知ったら、この娘はどう思うだろうか…
己がこんな感情を抱く事自体信じられない。
他人が自分の事をどう思おうがどうでもいいはずだ。
なのに、彼女には嫌われたくないという不思議な感情が湧いてくる。
(穢れを知らない、純真無垢なこの瞳のせいか…)
小太郎が今夜ここへ来たのだってただの気紛れだった。
彼が雪乃を元親に預けたのは、単にこの屋敷が彼女を助けた森から一番近かったから。
それに元親の人柄は風の噂で知っていたし、彼なら雪乃の面倒を見てくれるという確証があった。
何となく彼女の様子が気になって来てみれば、こんな夜遅くに空を見上げながら溜め息をついているものだから、柄にもなく構いたくなってしまったのだ。
「あっ…えっと……私、雪乃と言います。あなたは…」
「………」
どこの誰かも分からない男に迷いもなく自分の名を明かすなど、この娘には危機感というものが無いのか…
若干呆れながらも、小太郎は雪乃の右手をそっと取った。
そしてきょとんとしている彼女の手の平に、ひと文字ずつ指で自分の名を綴っていく。
『ふ う ま こ た ろ う』
「…ふうまさん?」
「(コクリ)」
反復されたその名に頷けば、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
その笑顔に少なからず動揺する。
自分に屈託のない笑顔を向けてくるのはこの娘ぐらいだ。
人から疎まれる事はあっても慕われる事など無い。
そもそも自分は『人間』としてではなく『道具』として扱われているのだから。
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