第3章 再会と約束
「…ハァ」
その晩何故か寝付けなかった雪乃は、屋敷の縁側でぼんやり月を眺めていた。
彼女がこの世界に来てから早2週間。
元親と共に、いざ例の森へ!と息巻いていたのは良かったが、自分が最初に迷い込んだあの森の場所が分からないという事に気付いたのである。
一国の主である元親も珍しく執務に追われ、忙しい日々を送っていた。
「雪乃、ホントにすまねぇ!」と謝ってきた彼にむしろこちらが気後れしてしまう。
(よく考えたら、元親さんてこの国で一番偉い人なんだよね…)
そんな人を自分の我が儘に付き合わせていいのかと改めて思ってみたり…
結局雪乃はまだこの屋敷を出る事も出来ず、相変わらずここの雑用や食事作りの手伝いなどをして過ごしていた。
(あの人にまた会えないかな…)
ふと頭を過ったのは、森の中で自分を助けてくれた謎の男。
結局彼にはお礼も言えていない。
そして、あの森からここまでの道程を知っているのは恐らく彼だけだ。
もし彼に会えたら、色々と聞きたい事があるのに…
「…ハァ」
そうして雪乃が再び溜め息をつくと、落とした視線の先にスッと影が差した。
「…っ」
驚いて気配のした方へ視線を向ければ…
「…!」
そこには、今まさに自分が会いたいと思っていたあの男が立っていた。
「あ、あなたは…!」
「………」
あの時と同じ風貌のその男。
無言のまま雪乃を見下ろしている。
「あ、あの…っ」
驚き過ぎて思わず言葉に詰まったが、今度こそちゃんとお礼を言わなくてはと呼吸を整える。
「この間は助けて頂き、ありがとうございました!あなたが来て下さらなかったら今頃どうなっていたか…」
思い出しただけでも背筋が凍る。
けれど雪乃は、目の前にいるこの男の方が余程恐ろしいという事をまだ知らなかった。
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