第2章 屋敷での生活
「あの…颯くん」
「はい?」
「町へは行ってみたいんだけど…私、お金持ってなくて…」
お金を含め、貴重品の類いは何も持っていない。
けれどそんな雪乃の心配をよそに、颯は無邪気に笑った。
「そんな心配いりませんよ、お金はアニキから預かってますから。必要な物があれば何でも買っていいって言ってましたよ」
「……、」
何だかここまで面倒を見てもらうのは申し訳ない。
ちゃんと帰れるようになったら、その前に恩を返さなくては…
それから着物を数着、颯に勧められて簪や化粧品なども少しだけ買ってもらい、その日は屋敷へ戻った。
「それじゃあ、湯浴みが終わって着替えたら声を掛けて下さい。俺は自分の部屋にいますから」
「うん。颯くん、色々ありがとう」
颯と一旦別れ、湯殿へ足を運ぶ。
そして脱衣所で服を脱いだ時、ある重要な事に気が付いた。
(…あれ?)
いつも肌身離さず身に付けていたネックレス。
亡くなった兄から昔プレゼントされた物だったが、それが無くなっているのだ。
(嘘…どこかで落とした…?)
思い当たるのは、山賊の男たちに襲われた時。
服を破かれた時に、ネックレスも引き千切られてしまったのかもしれない。
雪乃にとっては兄の形見とも言える物。
当然ショックは大きかった。
けれど今はそれを探しに行く術も無い。
「ハァ…」
一旦諦めた雪乃はひと通り体を洗い終え、湯船に浸かりながら様々な事があったこの半日を振り返った。
(ホントにこれからどうしよう…)
颯と町を回ってみて思ったのは、やはりここは自分の知っている日本ではないという事。
そして元親の存在…
ここ数年、各地で起こっているという戦…
まだ確信は持てないが、ひょっとしてここは戦国時代なのではないだろうか…
(どうしてこんな事になっちゃったんだろ…)
自分を拾ってくれたのが元親や颯のような人間だったから良かったものの、森で襲ってきたあの男たちのような者だったら…
そう思うと、ぞくりと背筋に悪寒が走る。
(とにかく、1日でも早く元の世界に帰れる手段を探さなきゃ…)
こっちへ来れたのだから、きっと帰る方法だってあるはず。
何の確証も無かったが、今はそう前向きに考えるしかなかった…
.