第9章 忍流風邪の治し方
「ん…っ…、」
どれ程の時間そうしていただろう…
雪乃は力の入らなくなった体を小太郎に預ける。
…と、その時。
「雪乃、いるか?」
「…!」
部屋の外から声が聞こえてきた。
…元親の声だ。
「チッ…毎度毎度俺の邪魔をする」
そう言って舌打ちをする小太郎。
彼はもう一度触れるだけのキスをすると、雪乃の耳元で妖しく囁く。
「…これから覚悟しておけ」
「……、」
それだけ告げると、小太郎は彼女の前から姿を消した。
「ちゃんと大人しくしてたみてぇだな」
「……、」
部屋に入ってきた元親にそう言われ罪悪感が芽生える。
今の今まで、小太郎のせいで心拍数を上げていたなんて口が裂けても言えない。
「も、元親さん…それは?」
平静を装う為に、雪乃は元親が持ってきた物に目をやった。
彼の手には先程見掛けた御盆があり、その上には和菓子らしき物が乗っている。
「ああ、これはずんだ餅ってんだ。この地域の名物らしいぜ」
それなら雪乃も知っている。
現代でもずんだ餅は有名だし、何度か食べた事だってある。
「一緒に食わねぇか?お前に食欲があれば…の話だが」
「はい、頂きます」
数時間前に朝食を摂ったばかりだが、昨日何も食べずに寝てしまったせいか小腹が空いていた。
「うわぁ…これ、見た目もすごく綺麗ですね」
「そ、そうか?」
「はい」
ひと口食べてみると、枝豆の甘さと砂糖の甘さが口に広がる。
見た目を裏切らない上品な味だ。
「…美味ぇか?」
「はい、とても」
「そうか……ちゃんと味見した甲斐があったぜ」
「…え?これ、元親さんが作ったんですか?」
「…!」
そう聞くと、元親は「しまった」というような顔をした。
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