第9章 忍流風邪の治し方
「あ、ああ…騙すような真似して悪かったな。最初から俺が作ったっつったら、お前の事だから不味くても気ぃ遣って美味いって言うと思ってよ」
「……、」
「この城の女中に作り方を聞いて、さっき作ったんだ」
「すごいです、これ本当に美味しいですよ!」
「そりゃあ良かった」
「元親さんは器用ですね」
元々カラクリ作りが趣味である彼は手先が器用だ。
普段料理は殆どしないが、真面目にやればすぐに上達するだろう。
(雪乃がこんだけ喜んでくれるなら、ちっと勉強してみるか…?)
政宗も小十郎も料理上手だ。
彼らへの対抗心で料理を始めてみようと思ったが、そんな事もうどうでも良くなってしまった。
「そうだ、雪乃」
元親が思い出したように声を上げる。
「明日港で、大規模な貿易が行われるらしいんだ。体調がイイようなら一緒に行ってみねぇか?」
「貿易…」
「確率は低いだろうが…お前の探しもんの手掛かりがあるかもしれねぇし」
「はい、そうですね」
そもそも雪乃がここへついて来たのは、兄の形見を探す為だ。
聡明で優しかった、たったひとりの兄の…
「そういや探しもんて、確かお前が兄貴から貰ったもんだって言ってたよな。お前の兄貴ってどんなヤツなんだ?」
「………」
その質問に雪乃は一瞬顔を曇らせる。
彼がすでに故人である事を元親にはまだ話していなかった。
「兄は物静かで頭が良くて…私にはいつも優しかったです」
「……。なんか俺とは正反対っつー感じだな。つーかなんで過去形なんだ?」
「それは…」
そこで初めて彼にも打ち明ける。
2年前兄が突然他界した事を…
その原因は今でもハッキリしていない。
大学から帰ってこない兄を心配し家族総出で探し回ったところ、彼は境内の裏庭で発見された。
けれどその時すでに息は無かったのだ。
当時は事件性もあると考えられ警察が出入りしていたが、外傷も不審人物の目撃も無かった為、結局"急性心不全"として片付けられた。
──神社の息子が境内で不審死…
それはあっと言う間に世間へ広まり、神社には"呪い"や"祟り"があるなどと噂され、今ではすっかり寂れてしまったのだ。
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