第9章 忍流風邪の治し方
(…退屈だなぁ……)
小十郎に追い返され、部屋に戻ってきた雪乃。
かと言って特にやる事も無く、ひとりぼーっとしていた。
「…ハァ」
何もせずにいると、どうしても昨夜の事を思い出してしまう。
小太郎とのあのやり取りを…
(だ、だめだめ!考えるのやめよう!)
そうぷるぷると頭を振った瞬間…
「…ひとりで百面相か?」
「!!」
突然背後から聞こえてきた声。
それは今、最も会いたくなかった人物の声で…
「こ、小太郎さん…」
「…どうやら熱は下がったようだな」
「……、」
まともに彼の顔を見る事が出来ない。
けれど…
(いい加減、はっきりさせておいた方がいいかもしれない…)
彼が何故あんな事をするのか…
自分をからかっているだけなのか、それとも…
「こ、小太郎さんは……どうして私にあんな事をしたんですか…?」
「…何の事だ」
「と、とぼけないで下さい!昨日だって…あ、あんなひどい事…」
「………」
顔を赤くさせる雪乃を黙って見下ろす小太郎。
そんな彼に雪乃は更に続けた。
「あ、ああいう事は……その…好きな人にするべきだと思います…」
「…?」
けれど彼女の言葉に小太郎は首を傾げる。
(な、なんでそこで首を傾げるかな!?)
雪乃は正論を言ったつもりだったが、どうやら彼には理解してもらえてないようだ。
そもそも小太郎には『好き』という感情が解らない。
今まで他人にそんな感情を抱いた事がないのだから…
「…したいからする。それの何が悪い」
「なっ…」
(ひ、開き直ってる…!)
恥ずかしいという気持ちより、徐々に怒りが芽生えてきた。
知らず知らずのうち彼を咎めるような口調になっていく。
「じゃ、じゃあ!小太郎さんは誰でもいいって事ですか!したいと思った相手なら…!」
「…ああ」
「っ…」
淡々と答える小太郎に雪乃はショックを受けた。
もしかしたら、自分は心のどこかで甘い言葉を期待していたのかもしれない。
(…誰でもいいなんて……ひどい…)
怒りを通り越して、今度は悲しくなってくる。
自分は特別な人間などではなかったのだ……少なくとも彼にとっては…
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