第9章 忍流風邪の治し方
(元親さん…急にどうしたんだろう?)
「確かに、料理が出来る男性は素敵だと思いますけど…」
「…そ、そうか」
「…?」
本当にどうしたんだろう…
心なしか彼の表情は暗いように見える。
「あ、あの!でも別に出来ないからってダメだとも思いませんよ?それに、元親さんの作ってくれるお魚料理はとても美味しいですし」
「ハハッ、俺に気ぃ遣ってくれてんのか?ありがとな」
「……、」
フォローしたつもりだったが、彼の暗い表情を完全に晴らす事は出来なかった。
「これ、下げてくる」
雪乃が食事を終えると、元親は空になった茶碗や皿を再びお盆に乗せる。
「あっ、それなら私が…」
「病人は大人しくしとけ。こんな時ぐらいもっと俺に甘えろよ」
「元親さん…」
「それに…ちょっと台所に用もあるしな……」
「え…?」
「な、何でもねぇ!とにかく無理しないでゆっくり休んでろよ?」
捲し立てるようにそう言うと、元親は部屋を出て台所へ向かってしまった。
(大人しくしてろって言われたけど…)
このまま部屋でぼーっとしているのも退屈だ。
(外の空気を吸いに行くくらいならいいよね)
丸一日寝てしまって体も鈍っている。
雪乃は部屋を出て、庭を散歩してみる事にした。
(あれは…)
庭を散歩しているうち開けた場所に出る。
そこには綺麗に整えられた畑が広がっていて…
(小十郎さん…?)
見知った人影を見つけた。
何やら小十郎が畑の手入れをしているようだ。
「小十郎さん、何してるんですか?」
「…ああ、雪乃か。もう体調はいいのか?」
「はい、ご心配お掛けしてすみませんでした。それから…お食事もありがとうございます。すごく美味しかったです」
「そうか…そりゃあ良かった」
小十郎はホッとした表情で、額に滲んだ汗を拭う。
「あの…私も何かお手伝いしましょうか?」
けれど雪乃がそう申し出た瞬間、彼の眉間に深い皺が刻まれた。
「病み上がりが何言ってやがる。また風邪振り返したらどうすんだ」
「ぅ…」
「その気持ちだけ受け取っといてやるから、お前はまだ部屋で休んでろ」
「…はーい」
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