第2章 俺が古くなった本を繰り返し読み続ける理由【リヴァイ】
あれから、それなりに長い月日が流れた。
今では、俺の洋服を一から作ってしまうくらいに、は裁縫が得意になった。病棟でが暇つぶしにと貸してくれた本も、黄ばんで、もうボロボロだ。
それでも、何度も何度も読んでしまう。
飽きもしないで『飽きないのか。』と可笑しそうに笑うの隣で、俺は何度も想い出の本のページを開くのだ。
「なぁ、。」
「ん?なんですか?」
話しかけると、が裁縫をしている手を止めて顔を上げ、首を傾げた。あの頃と変わらないその仕草は、相変わらず可愛らしい。
「皴が増えたな。」
「…!?失礼な人ですね。
リヴァイさんだって、真っ黒だった髪に白髪が混じってますよ。」
「お互い様だ。」
「ふふ、そうでした。」
が可笑しそうに笑う。そしてまた、鼻歌を歌いながら編み物を再開させた。
出逢ってからもう、何年経ったのだろうか。数えるのも大変なくらいの時が流れた。
初めての子育てに慌てふためいていたあの日々は、つい昨日のことのように思い出せるのに、何も知らない赤ん坊だったはずの彼らも大人になって、この小さな家を出て、大きな世界で自分達の居場所と幸せを見つけた。
俺の誕生日でもある明日のクリスマスには、孫達を連れて帰ってくるのだそうだ。きっと、何か買ってもらおうと考えているのだろう。
分かっているのに、は豪華な料理の用意をして、俺は抱えきれないくらいのオモチャを買ってきた。
鼻歌なんか歌いながら楽しそうに編んでいる小さな帽子は、半年前に産まれたばかりの末孫の為のものなのだそうだ。初めての冬の寒さも、が編んでくれた帽子があれば、暖かく過ごせるだろうから、安心だ。
王都の地下街で生まれ育ち、調査兵団の兵士長にまで上りつめても、俺が欲しかったのは、地位や権威、名誉や栄光ではなかった。
俺が欲しかったのは、穏やかな暮らしだ。
ゆっくりと空気を吸って、大切な人達と生きる明日を信じられる日々が欲しかった。
俺はあの頃から、何も変わっていない。
どんなに老いても、脚が、腕が、あの頃のように思い通りに動かずとも、大切な人達を守るためなら、命の限りに戦い続けよう。
明日、もしも、おぞましい脅威が襲ってきても、俺は臆せずに立ち向かい、必ずを守りぬいてみせる覚悟がある。