第10章 雨が上がった、やっと君に会えたよ【リヴァイ】
≪『いつも、ありがとう。』
誰かが、私の頭を優しく撫でる。
柔らかくて、可愛らしい声だ。でも、知ってる人じゃない。
誰だろう———そう思うのに、降りしきる土砂降りの雨が瞼を叩くから、前がよく見えない。
でもきっと、私を助けてくれたのが彼女なのだ。
お礼を言うのは私の方なのに、どうして彼女が『ありがとう』なんて言うのだろう。
それに、『いつも』というのはどういう意味だろうか。
私は、この可愛らしい声の主を知らない。
あぁでも、微かにするこの、土と鉄と石鹸が染み込んだような香りは、知ってる。
リヴァイさんと、同じだ。
だからだろうか。すごく、安心する。
「大丈夫ですか!?」
叩く雨の音の混じって、焦ったような男の人の声が響く。
そして、彼が私を覗き込めば、狼狽えた男の人の表情がよく見えた。
雨にまぎれた彼女の姿は、全然見えなかったのに———。
あぁ、でも、聞こえる———。
『もう少し、待っていてあげて。
彼は優しいだけ、悲しいくらいに優しすぎるだけだから。』
何を、待ってあげればいいのだろう。
でも、〝悲しいくらいに優しすぎる彼〟が誰なのかは、分かった気がする。
もしも彼女が言っているのが、リヴァイさんのことなら、心配しないでほしい。
私は、彼を愛しているから。
いつまでも待っていられるし、彼の悲しい優しさが降らせる雨なら一緒に打たれてもいい。
たとえそれが永遠になろうが、気にしない。
だから、あなたもどうか————。
「心配、しないで。」
「…!!大丈夫ですか!?心配しないでって、大丈夫ってことですか?
聞こえますか?!」
次第に薄れていく意識の中で、安心したような柔らかくて優しい笑みだけは、なぜだかわからないけれどハッキリと見えた気がした。≫