第10章 雨が上がった、やっと君に会えたよ【リヴァイ】
今すぐに病院に向かえ———。
そう言われなくたって、俺は兵舎を飛び出していた。
大粒の雨が、足がもつれそうになるほどに前のめりになって走る俺の身体を痛いくらいに叩きつけていて、忘れてしまいたいと願っていた冷たくかたい絶望的な感触を無理やり蘇らせる。
エルヴィンに届いた情報によると、道路を歩いていたに馬車がスピードを下げることもせずに突っ込んだらしい。
この大雨が災いして、馬と馭者の視界を阻んだのだろう。
意識不明の重体で病院に運ばれたというの安否を知るのが、怖い。
でも、転がるように猛スピードで走る俺の脚は止まろうとはしてくれないのだ。
(俺のせいだ。俺が、会いに来いなんて言ったから…っ。)
死にたいほどに、自分を責めている。
俺がにペトラの面影を重ねて、救われようなんて甘えたことをしなければ、こんなことにはならなかった。
いや、そもそも、俺はに出逢わなければよかったのだ。
そうすれば、ペトラがこんな風に泣きじゃくることもなく、がこんな目に遭うこともなかった。
すべて、悪いのは俺だ。
俺なのだ。
病院までの道のりが、壁の向こうにある海よりもずっと、果てしなく遠く感じた。
漸くたどり着いた病院で、俺は、通りがかった看護師を捕まえると、喚くようにの容態を訊ねた。
そして、教えてもらった病室へと急いで向かうと、勢いよく扉を開けて、病室に走りこんだ。
「!!」
俺は、まるでそのときその言葉しか知らない赤ん坊みたいに、の名前を呼んだ。
ベッドの上に、はいた。
白い壁と白い天井、白いシーツ。白い病衣に包まれたは、まるで天使のようだった。