第10章 雨が上がった、やっと君に会えたよ【リヴァイ】
今夜も雨が降った。
冷たくかたい窓に手を添えて、俺はまた歪んだ空を見上げる。
晴れていた昼間が嘘のような土砂降りだ。
俺が他の女を部屋に誘ったりなんかしたから、ペトラが泣きじゃくっているのだろうか。
どんなにツライ別れに心を打ちのめされても、必死に唇を噛んで、大きな瞳にこみ上げた涙をなんとか堪えながら、強く前を向いていたペトラを、きっと俺は泣かせているのだ。
約束の時間まであと少し。
大切な話があるのだ。今の俺の話と、あのときの俺の気持ちと、伝えなければならないこと、知っておいてほしいことが、たくさんある。
でも、まだ、は来ない。
このまま、来なければいいのかもしれない。
どんな理由だっていい。
心変わりだっていいし、ただ単純に俺を好きじゃなくなったってことだっていい。
さえここに来なければ、俺はペトラを裏切らずに済む。
俺はもうこれ以上、ペトラを悲しませたくないのだ。
だって、俺はいつだって言葉足らずで、ペトラを不安にさせていた。
調査兵には〝今〟しかないと知りながら、照れ臭さとか、言わなくても伝わってるとか、そんな甘えから、大切なことを何一つ伝えていないのだ。
本当は、伝えたいことがたくさんある。今なら、俺はちゃんと伝えられる。
どんなに足掻いたって取り戻せない時間が、苦しい。
どうすればペトラが生きてる〝今〟があっただろうか、俺はどうすればペトラを救えたのだろうか、と不毛なことを考え続ける時間が、苦しい。
どんなに苦しんでも、その苦しみを何とか乗り越えたとしても、俺とペトラは、もう手遅れだと分かっている。
だって、死んだ相手にはもう何も伝えられないから———。
「愛してる…。」
ポツリと呟いた言葉は、ひとりきりの部屋では誰に伝わることもなく、窓を叩く雨音にかき消されていく。
どうしようもなくやるせない気持ちになって、俺は、冷たくかたい感触に縋るように、窓に触れている手を握りしめた。