第10章 雨が上がった、やっと君に会えたよ【リヴァイ】
今夜、時間はあるか————。
そう言えば、ペトラはいつも、少しだけ頬を染めて、でも嬉しそうに頷いた。
そして、その夜は、俺は一人きりの寝室で、いつも以上に腕に磨きをかけて部屋を綺麗にしたものだ。
でも、信じがたいけれど、それはもう昔の話。
今ではもう、俺が何度、会いに来いと言ったところで、躊躇いがちに扉を叩く音は聞こえない。
待ちきれずに扉を開けても、仕事が長引いたことを申し訳なさそうに謝るペトラにも会えない。
だから、今夜も俺は、綺麗になりすぎてチリどころか想い出すらも残っていない部屋で、ひとりきりで待ちぼうけだ。
でも、初めからわかっていたことだから、気にしてもいない。
「また、雨か。」
ひんやりと冷たい無機質な窓に手を添えて、窓枠越しに見える小さな空を見上げる。
しとしとと降る雨が窓を濡らすから、見慣れた景色が歪んで見える。
と会った日の夜は、必ず、雨が降るのだ。
だからまるで、ペトラが泣いているみたいで、胸が張り裂けそうになる。
ペトラが俺の前から消えても、残酷な世界がより一層残酷になるわけでもなければ、幸せになんてなれるはずもなかった。
世界は、生きとし生けるすべてのものに平等に、立ち止まってる暇も転んでる暇もねぇと急かすように背中を蹴って、歩き続けろと繰り返す。
だから、どうしても思ってしまう。
ペトラを失ったとき、俺も一緒に死ねればよかった————。
すべてを投げ出して、消えてしまえたらどんなによかっただろうか。
そんなこと、しないさ。
しないけど————。
俺は今夜も、ペトラを部屋に誘う。
大切な話があるのだ。今の俺の話と、あの時の俺の気持ちと、伝えておきたかったこと、知っておいてほしいことが、たくさんある。
俺は何度も何度も、飽きもしないでペトラを部屋に誘う。
でも、ペトラは来ない。来れるわけがない。
だから、待ち続けるのだ。
誰かを、忘れられる日を———。