第8章 5文字の君の名前【リヴァイ】
俺に対して、彼女は、気を遣うことをしないし、距離を置こうともしない。
でもだからと言って、ズカズカと心に入りこんで来ようともしない。
彼女がくれる距離感は、俺の目を眩ませようとする。
だからこんなことに———。
「リヴァイさんが掴めるものは、私も掴めるし、
リヴァイさんが掴めないものは、私も掴めないんだなぁって思ったら、嬉しくて。
嬉しいことも悲しいことも、誰よりも分かり合えるってことですから。」
は、俺と手を重ね合わせたまま、本当に嬉しそうに言う。
あぁ、本当に、物は言いようだと感じる。
俺なら、そうは捉えない。
彼女が掴み損ねたものを、俺は掴まえてはやれない。
俺が掴み損ねたものを、彼女も掴まえてはくれない。
俺達は、お互いに持っているものしかない相手に興味を失って、欲しいものを掴み損ねる相手に愛想を尽かして、そうやって失っていくしかないのだと、そう思ってしまったから——。
「あぁ、そうかもな。」
重なる華奢な手を包み込むように握りしめると、は少し驚いたように目を見開いた後、ひどく嬉しそうに頬を緩めた。
染まる頬は、俺が見たいと思っていたものに近いのかもしれない。
俺とは、考え方がそもそも違う。
長く生きて来た間に、学ぶことが出来なかった新たな視点を教えてもらう度に、俺は、新しく生まれ直したような不思議な感覚に包まれる。
もうそろそろ、俺は、勝手に決めつけていた偏見を投げ捨て、素直になった方がいいのかもしれない。
きっと、本心を話すべきなのだろう。
でも、俺は———。