第8章 5文字の君の名前【リヴァイ】
『愛してる。』
俺は何度も、その言葉を口にしたことがある。
求められるまま、そうすることで、うまくいくと知っていて、その5文字を音にした。
でも、今思えばそれは、嘘だったに違いないのだ。
だって、今、芽生え始めているこの感情こそが、本物になりえるものなのだと、心の奥底で俺は予感しているから———。
あぁ、でも———。
『愛してる。』
その言葉が、この世で最も似合うのが、彼女なんじゃないかと思う。
幾千回だって、そう伝えられてもいいくらいの価値が、彼女にはある。
でも、俺は、気持ちを言葉にするのが他人よりも下手で、もう二度と、誰かを愛したくもない。
だから、俺は———。
「リヴァイさんの手、すごく綺麗。」
シーツの中に隠れていた俺の手を引っ張り出して、は、細く華奢な2つの手で包み込んだ。
愛おしそうに見つめる瞳の上で、長い睫毛が明かりに照らされて光るから、まるで宝石のように見えてしまった。
俺の手なんか握っていると、彼女のまっさらで綺麗な手を、穢してしまうような気がした。
欲望のままに抱いて、言葉もないまま、狭いベッドに閉じ込めておいて、今さらなのに。
「巨人を殺しまくる手だ。」
逃げようとした俺の手を、華奢な細い指が絡みとって逃がさない。
そして、俺を見つめて、柔らかい笑みを浮かべて言うのだ。
「仲間を守る、世界一優しい手ですよ。」
「…物は言いようだな。」
俺の手は、逃げる気を失くしたフリをして、に預けた。
そうすると、は、楽しそうに、包んだり、開いたり、絡めとったりして遊び出す。
そして、自分の右手と、俺の左手を重ね合わせると、嬉しそうに言った。
「ほら見てください。私とリヴァイさんの手、ピッタリ。
同じサイズです。」
「馬鹿にしてんのか。」
本当はイラッとなんかしていなかったけれど、怒ったように言えば、は可笑しそうにクスクスと笑った。
あぁ、たぶん俺は、彼女のこういうところも、一緒にいて気が楽なのだと思う。