第8章 5文字の君の名前【リヴァイ】
鳥籠に囚われたような狭い壁の中から飛び出して、命を削るような生き方をしている割に、俺はそれなりに長く生きている方だ。
家族は死んで、大切な友人の命も奪われた。
たくさんの仲間を失い、俺はもう、明日の命すら信じられない。
心を開いては、傷ついて、傷つけられて、失う。そして俺はまた、心を閉ざすことを選ぶ。
俺の人生なんて、そんなことの繰り返しだ。
だから、誰かを愛しても意味がないと思ってる。
そんな俺を、彼女は何度だって見て来たはずなのに、決めつけたりしないのだ。
そのときに生まれる〝愛〟という感情を、俺はこの世で最も恐ろしい感情だと、信じているのに————。
何度も地獄を見てきたはずの彼女の瞳は、決して曇らない。
いつまで経っても出逢った頃のまま、綺麗なままで俺を見つめる。
だから俺は、彼女を見つめ返すのが、この世で一番、怖い———。
でも、俺達は今、同じ部屋にいて、同じベッドの上にいて、染みだらけの古びた天井を、一緒に眺めている。
今夜が初めてなわけではないけれど、長い間、そうしていたわけでもない。
始まりの夜を鮮やかに思い出せるほどには、まだ日も浅い。
今ならまだ、引き返せるはずだ。
俺達は、もういい大人で、それなりの言葉を交わしたわけではないのだから———。
『愛してる。』
もし俺が、似合わない台詞を口にしたら、彼女はどんな顔をするのだろう。
そう、思わないわけじゃない。
だって、俺は知ってる。
彼女は、どうでもいい男と身体を重ねるような女じゃない。
俺を見つめるときの、彼女の綺麗な瞳が語る言葉に気づかないほど、経験がないわけでもない。
俺は、知りたい。
似合わない台詞を俺から聞いた時に、柔らかく細くなる瞳を、薄く染まる頬を、この世で最も美しいだろう、その笑みを——。
でも俺はまた、喉の奥にまでせりあがって来た言葉を飲み込んで、腕枕をした格好のままで、彼女の頭を抱き寄せた。
「ふふ、くすぐったい。」
俺の髪が頬をかすめたらしく、は首をすぼめながら、小さな声で楽しそうに笑う。
クスクスという子供のような無邪気な笑い声が、俺の耳に届く度に、俺は彼女を穢してるような気がするのだ。
だって———。