第7章 相変わらずな君と僕【リヴァイ】
(ダメだ…。俺は…っ。)
勢いよく振り返った。
バス停に立つは、俺に背を向けて、すぐそこまで来ているバスを待っていた。
俺が地面を蹴ったのと、バスの乗車口が開いたのはほぼ同時だった。
間に合えー。
まるで呪いみたいに願って、必死に走った。
が乗車口に片足を乗せたのが見えて、俺は必死に手を伸ばした。
「!!」
必死に伸ばした手は、の肩を捕まえた。
すぐに後ろに引けば、華奢な身体はバランスを崩しながら俺の胸元へと後ろ向きに倒れてくる。
そのまま強く抱きしめれば、が驚いて落としてしまった黒いトートバッグから、抱えていた思い出の品が零れて、アスファルトの上に散らばった。
その途端に包まれる香りに、泣きそうになる。
そう、本物はこれだ。
身長はそんなに変わらないけれど、華奢で細い身体は俺の腕の中にすっぽりとおさまって、空気を吸い込めば、香水との匂いが混ざった甘い香りに包まれるのだ。
「俺の身体が心配なら、飯は、お前が作れ…!」
我ながら、身勝手な台詞だった。
でも、これが、素直になるのが下手くそな俺の精一杯だった。
ならきっと、分かってくれる。
だからどうかー。
どうにか、伝われー。
そんな願いを、拘束するように抱きしめる腕に込めた。
「…め、し…?」
躊躇いがちに発したの声は、泣いているのか震えていた。
もし、その涙が、俺を想って泣いているのならー。
自信があったわけじゃない。
己惚れる勇気すらない。
でも、今は、それは俺のための涙だと信じて、素直になる勇気を貰った。
「俺は掃除をする。いつも綺麗な部屋で生活できるようにしてやるし、
お前が買ってくるばっかりで使いもしねぇガラクタを入れる箱も用意するっ。
マニキュアでテーブルを汚されても、もう怒らねぇから…っ。」
だから俺に飯を作ってー。
痛いくらいに腕に力を込めて、俺はの耳元で弱々しい声で懇願した。