第7章 相変わらずな君と僕【リヴァイ】
ソーサーに乗せたティーカップを2人分用意した。
今朝、ヤカンから目を離して失敗したから、キッチンから一歩も動かずに丁寧に作った紅茶は、味見をしてみたけれどなかなか美味かった。
これならきっと、も褒めてくれる。
緩みそうになる頬をなんとか堪えて、俺は寝室へ向かった。
扉を開くと、は背中を向けてベッド脇に立っていた。
「紅茶が出来た。飲むか。」
「大丈夫だよっ。荷物取ったら帰るからっ。」
緊張して声をかけた俺と違って、すぐに振り返ったは、軽く答えた。
何と返事をしたかは覚えてない。
扉を閉じることもしないまま、俺はキッチンへ戻った。
そして、必要なかったティーカップを手に取って、シンクに流す。
(何やってんだ、俺は。)
薄い紅茶色の液体が、排水溝の奥へと消えていくのを見下ろしながら、心の中で呟く。
分かっていたはずだ。
が俺を心配してくれていたのは、俺を愛してくれていたからだ。
別れた今、は、俺が1人では何もできないポンコツ野郎だって、全然気にもしないのだ。
どうだっていいのだ。
心配してくれるわけ、ないのにー。
(一緒に紅茶を飲もう、って言えばよかったのか。)
流した紅茶のすべてが排水溝の奥に消えてなくなった頃、俺はやっと気が付いた。
まだ一緒にいたかった。
少しだけでも長く、一緒にいたかった。
だから、紅茶を作ったのだ。
一生懸命作った紅茶を飲ませたら、惚れ直してくれるんじゃないかって。
あのときの気持ちをが思い出してくれるんじゃないかって、馬鹿みたいに期待をしてた。
紅茶に頼ることしか出来ず、それを受け入れてすらもらえなかった俺はなんて間抜けで格好悪いんだろう。
出逢った頃の俺はもっと格好良くいられたはずなのにー。
(そりゃ、もう好きじゃねぇよな。)
シンクの水道の蛇口を捻って、紅茶の香りも流す。
が「カッコいい。」と頬を染めて褒めてくれた俺は、もういない。
そんなもの、最初からいなかった。
好かれたくて、もっと好きになって欲しくて、必死に格好つけていたのに、どんな俺も受け入れてくれるに甘えて、適当になっていた。
優しくすることすら出来なくなっていた。
気持ちが離れた理由に心当たりがありすぎて、自己嫌悪すら馬鹿げている。