第7章 相変わらずな君と僕【リヴァイ】
まだ未練たらしく引きずっている俺とは違って、はもう過去にしていた。
キッチンに立てば、カウンター越しに、想い出の欠片を集めた黒いトートバッグを握りしめて、リビングを見渡しているの姿が見えた。
分かってる。俺とはもうは、過去なのだ。
それならー。
俺は、今朝、棚に仕舞った紅茶の葉を入れた瓶を取り出した。
そして、水を入れたヤカンに火をかける。
いつも俺の心配ばかりしていたが、別れた後も心配してしまわないように、1人で紅茶だって作れるということを見せよう。
そうして、安心して、俺のことを思い出す時間もなくなってくれたらいい。
そしたらやっと、俺は忘れられる気がする。
「ねぇ、リヴァイ。」
ポットに紅茶の葉を入れていると、に名前を呼ばれた。
自分の名前を久しぶりに聞いた気がした。
顔を上げると、カウンターの向こうに立つがぼんやりとこちらを向いていた。
でも、俺を通り過ぎてどこか遠くを見ている。
あの頃もそうだった。
はいつからか、俺の目を見なくなって、いつもどこか違う方を向いていた。
向かい合うから、俺を見て欲しいと思ってしまうのだと、に背中を向けるようになった。
でも、実際、最初に目も合わせなくなったのはどっちなのだろう。
俺はきっといつも、すべてをのせいにしすぎていたのだ。
「なんだ。言いてぇことがあるなら早く言え。」
「あぁ…!ごめん。ボーッとしてた。
寝室も見てもいい?黒猫ちゃんを置いて行ったままだったでしょ。
出来れば、白猫ちゃんも連れて帰っていい?」
ポットにヤカンのお湯を入れようとしていた俺の手が、思わず止まる。
そうか、あのぬいぐるみは持って行くのか。
白猫をひとつだけ置いて行かれても、虚しいだけだ。
それなら、俺にそっくりなあの黒猫のぬいぐるみと一緒に白猫のぬいぐるみも持って行ってもらった方がいい。
俺には、要らないから。
生きるために必要最低限のものがあればいい俺には、ぬいぐるみは、要らないー。
俺がこれからも生きていくために必要なのは、一番必要なのは数年前から変わってなくてー。
「好きにすればいい。」
目を伏せて、顔を見ないままで答えた。
そして、嬉しそうな名前の「ありがとう。」という声を聞き流した。