第6章 相変わらず【リヴァイ】
どうして、隣にいるときにもっと大事に出来なかったんだろう。
今さら後悔して、あの日々の愛おしさに押し潰されそうだった。
だから、少しだけ握る手に力を込めてみたら、それに応えるみたいに、リヴァイの手にも力が入る。
キュッと胸が苦しくなる。
もしかして、私と同じように、リヴァイも寂しいと思ってくれているのだろうか。
心の奥ではそうであってほしくて、気持ちとしては違うことを願う。
別れたのに手を繋いで歩いているなんて、私達らしくない。
決して近くはない距離を無言で歩くのは初めてだ。
何か話して欲しいと思っているうちに、すぐそこにバス停が見えて来た。
相変わらず、あっという間に着いてしまう短い距離に、懐かしい寂しさが胸に込み上げた。
「じゃあ、送ってくれてありがとうね。」
そう言って微笑めば、リヴァイの手が呆気なく離なれていく。
思わず、引き留めたくなって、なんとか堪えた。
今だけの感情に心を揺らしちゃいけない。
私達はお互いにこれが一番いいと考えて、別々の道を歩くことを決めたのだから。
「元気でね。」
「お前もな。」
「コンビニのお弁当ばっかり食べてちゃダメだよ。
たまにはちゃんとしたもの食べるんだよ。」
「分かってる。相変わらず、うるせぇな。」
面倒くさそうに眉を顰めるリヴァイに、数週間前までの私なら、ムカッとして、文句のひとつも言わないと気が済まなかった。
でも、これが最後なのだと思うと、いつものその態度すらも愛おしく感じてしまう。
せめて、あと数か月だけ前の私が、こんな風に思えたなら、私達はこんなことになっていなかったかもしれないのに。
「そうだね、ごめんね。でも、リヴァイの身体が心配なだけなんだよ。」
「…悪い。それも、分かってる。
ちゃんと、分かってた。」
「うん、それも知ってたよ。
それなのに、グチグチ文句ばっかり言って、面倒くさい彼女でごめんね。」
「そんなこと思ったことはねぇ。」
「そっか。それならよかった。」
それが嘘か本当かなんて、今の私にはもうどっちでもよかった。
どちらにしたってそれは、リヴァイが私に最後にくれた優しさに違いなかったから。
優しいリヴァイが心配しないように、私は強い人のフリをして、精一杯の笑顔を見せた。
「じゃあ、さよなら。」
「あぁ。じゃあ。」
リヴァイは短く言って、少しだけ名残惜しそうにしながら背を向けた。