第1章 俺の芝生はいつもどこよりも青い【リヴァイ】
長旅を終えた俺は、兵舎には戻らずに、トロスト区にある小さなアパートに帰ってきていた。
合鍵で扉を開ければ、心を落ち着かせてくれる優しい匂いが、俺を包んだ。
「おかえりなさい!」
嬉しそうに廊下を駆けて来たが、俺の「ただいま。」を待ちもしないで飛びつく。
それが愛おしくて、俺は無意識に綻んで、壊れてしまわないように優しく抱きしめ返した。
「ただいま。」
身体を離したに数日振りのキスをして、俺は漸く、家に帰って来たのだとホッとする。
土産話を聞かせてくれと好奇心いっぱいの目でせがむに手を引かれて、リビングへ向かう。
そして、ソファに並んで座ると、俺は、土産をひとつひとつ見せながら、壁の外で見て来た世界の話を聞かせてやった。
見たこともない光る鉱石で造られた指輪、レースが散りばめられたドレス、キャビアという高級な食べ物に、甘いお菓子。
さすがに、高級車や飛行機は持ってこれないから、小さな模型を買ってきた。
そのすべてを手に取る度に、は目を輝かせて、楽しそうに俺の話に耳を傾ける。
壁の外には、たくさんの〝素晴らしいもの〟があった。
俺は、世界の成り立ちを知る前から、壁の外に出てたくさんのものを見て来た。
そしてついに、壁の中に住む人類が知ることの叶わなかった世界にまで足を踏み入れた。
俺は、この壁の中にいる世界の住人の誰よりもたくさんのものを見て来たと思う。
だからこそ、俺は分かるんだ。
目が眩むほどの宝石のようなマーレの夜景も、アズマビト家自慢の高級ワインの味も、地平線いっぱいに広がる青い海も、この世界にあるどんなものもには敵わない。
比べものにならないくらいに、は素晴らしいんだ。
話すのが決して得意ではない俺の話を、目を輝かせて聞いてくれるよりも輝いているものを、俺は見たことがない。