第8章 scene2:ハートのバスタブ
何だか…、NINOが羨ましく思えた。
同じ仕事をしてるからこそ、お互いの立場が分かってるからこそ、通じ合えるし、理解だって出来る。
でも僕は…
仮に僕が誰かのことを好きになったとして、今の僕の置かれている状況を理解してくれるだろうか…
素顔を出しているわけじゃないから、“僕”だと気づかれなければ、もしかしたら可能なのかもしれないけど、それじゃ僕には後ろめたさが残る。
だってAV男優(僕自身は“女優”だと思ってるけど…)なんてさ…、しかもゲイ向けの…なんて…言えないもん。
でも、彼なら…
HIMEの大ファンだって言ってくれる櫻井君なら…
もしかしたら理解してくれるのかな…
…って、どうしてここで櫻井君の事が!
ああ…、もう、僕のバカバカバカッ!
櫻井君が好きなのは“HIME”で、“僕”じゃないのに…
はあ…、切ない。
…って、僕、別に櫻井君のことなんて、何とも…思ってんのかな…
「はい、出来上がり。くく、とっても可愛いわ」
ぼんやりと考え事をしているうちに、僕の金髪クルクルツインテールを整え、服まで着せてくれたNINOが、鏡越しに僕に微笑みかける。
「あ、ありが…とう…」
僕も手先は器用な方だって言われるけど、NINOもとても手先が器用なのね?
NINOが金髪クルクルツインテールに結んでくれたおリボン、とっても綺麗で可愛い♡
「どう? 気に入った?」
「うん、とっても♪」
あ、でも僕ばっかり…ってのは申し訳ないよね?
でも僕に出来ることって言ったら…
そうだ♪
「ねぇ、ちょっと待ってて?」
「え? いいけど…?」
僕はフワフワスカートの裾をヒラヒラさせながら、NINOをその場に残し、バスルームを飛び出した。