第34章 scene6:HIMEは君の中にずーっといるよ♡
「何だか不思議ね…」
え…?
「私ね、翔のお嫁さんと並んでキッチンに立つのが夢だったの」
「そう…なんですか?」
そう言えば母ちゃんも同じようなこと言ってたっけ…
僕が大人になって、好きな人と結婚して、それで一緒にお料理して、それから孫のお世話して…って。
でも僕にその夢は叶えて上げられないって分かった時、母ちゃん口には出さなかったけど、凄く悲しそうなお顔をしてたっけ…
「でも翔が選んだのが、まさか男の子だったなんてね…」
あっ…
そっか…、翔くんが僕を選んだってことは、翔くんのお母さんにも、それからお父さんにも、母ちゃんと同じ悲しい気持ちにさせちゃってるってこと…だよね?
どうしよう…
僕が翔くんと付き合うことで、こんなにも周りの人を悲しい気持ちにさせてるなんて…
自分が幸せなら…ってずっと思ってたのを、何だか申し訳ない気持ちになってくる。
「ごめんなさい…。僕…」
どうして男の子に生まれちゃったんだろう…
もし女の子に生まれてたら、こんな風に悲しませることもなかったのに…
「え、ちょっとどうしたの?」
まな板の上にポタポタと落ち始めた涙を見て、翔くんのお母さんが慌てて僕に紙を差し出す。
ってゆーか、それキッチンペーパー…だよ?
って、今はそんなことじゃなくて…
「僕、女の子じゃないから、普通のお嫁さんにはなれないし、赤ちゃんも産めないし…、ごめんなさい…」
何一つ期待には応えられないことが、悔しくて堪らなかった。
だからどうしても涙が止められなくて…
気が付いたら、僕は翔くんのお母さんの胸で、声こそ上げなかったけど、ボロボロ泣いていた。
僕の泣き顔、あんまり可愛くないのに…
目だって腫れちゃうし、酷いお顔になっちゃうのに…
でも止められなかったんだ。