第34章 scene6:HIMEは君の中にずーっといるよ♡
慌ただしく支度を済ませた翔くんを、翔くんのお家の玄関で見送る。
何だかとっても不思議な気分だけど仕方ない。
僕を待ってたら、大事な面接に遅れてしまうし、それに何より、翔くんのお母さんが僕のために、僕のリクエスト通りの朝ご飯を作ってくれてるんだもん。
食べずにさよならは…失礼じゃん?
僕は翔くんの後ろ姿が見えなくなるまで手を振ってから、お味噌汁の良い匂いに誘われるまま、キッチンへと入った。
「良く眠れた?」
「はい…、まあそれなりに…」
「そう? あの子寝相悪いでしょ(笑)」
「い、いえ、そんなことは…」
咄嗟に誤魔化す僕。
だってさ、お宅の息子さん寝相最悪ですよ、とは流石に言えないじゃん?
実際、翔くんがベッドから落っこちるまでは、僕もグッスリ眠れたし…
そしたら翔くんのお母さん、驚いたように目を丸くして、
「あの子がお行儀良く寝るなんて、大野くんはやっぱり特別なのね(笑)」
そう言ってクスリと笑った。
「あ、僕お手伝いします」
僕はシャツの袖を肘まで捲ると、翔くんのお母さんの横に並んでキッチンに立った。
「あら、良いの?」
「僕、これでもお料理するのは好きなんで♪」
“食”って意味ではあまり興味の持てない僕だけど、料理が出来上がるまでの行程は嫌いじゃない。
寧ろ好き♪
「そう? じゃあこれ切って貰える?」
「はい♪」
僕は受け取ったネギをまな板の上に乗っけて、慣れた手付きで刻んで行く。
すると、その様子を見ていた翔くんのお母さんが、また驚いたように目を丸くした。
「翔なんてご飯一つも炊けないのに、大野くんは偉いのね(笑)」
ふふ、褒められちゃった♪
「僕も最初はそうでしたよ? でも一度始めたらハマっちゃって(笑)」
ついつい作り過ぎちゃうのがたまにキズなんだけどね?
でも最近は翔くんが綺麗に片付けてくれるから、作り過ぎちゃっても安心なんだけど♪