第34章 scene6:HIMEは君の中にずーっといるよ♡
「あ、そっか…、だからあの時…」
翔くんと並んでソファに座っていた僕は、あの時別れ際に言った松本さんの言葉を思い出していた。
「松本さんね、あの時僕に“ごめん”って言ってたでしょ」
「うん、確かに…」
あの時は僕も緊張してたし、何を言われても上の空みたいなとこもあって、そこまで気にはしてなかったけど、今思えば…
「あれってさ、僕がAVに出てたことを、翔くんのお父さんに話しちゃってごめん、ってことだったんじゃない?」
そう考えれば辻褄が合うもん。
「そうかも知んないけどさ、考え過ぎじゃ…」
「ううん、絶対そうだもん…」
そりゃ僕だってそう思いたいよ?
でもさ、松本さんが僕に謝らなきゃいけないことなんて、他にも思いつかないんだもん。
「あ〜ん、もぉ…どうしよぉ…。ねぇ、翔くんのお父さん、僕のこと変に思ってないかなあ?」
「大丈夫だと思うよ?」
うん、僕も大丈夫とは思うけど、やっぱり不安なんだもん。
だって、好きな人の家族には、少しでも気に入られたいじゃん?
そう思うのは、きっと僕だけじゃないと思うんだ。
「だいたいうちの親父って、けっこう人の好き嫌い激しくてさ、一度嫌いって思った人とは、絶対口きかないんだよね(笑)」
「へぇ〜、そうなんだ?」
うちの父ちゃんとちょっと似てるかも(笑)
父ちゃんも、自分が気に入らない人とは、目も合わせないから。
あ、でもちょっと待って?
ってことは…
「ねぇ、僕嫌われてないってこと?」
翔くんのお父さん、最初は凄ーく恥ずかしそうにしてたけど、僕の家族のこととか、それから生い立ち(?)みたいなこととか、いっぱいお話もしたし、僕がケーキの上に乗っかったシャインマスカットを物欲しそうに見てたら、「食べなさい」ってくれたし…
それに、僕が翔くんの失敗話すると、凄く笑ってくれたし…
「ねぇ、僕、翔くんの恋人として認めて貰えた、ってこと?」
ううん、今はまだ認めて貰えなくたって良い。
僕のことを、少しでも知って貰えたら、それだけで良い。